野球善哉BACK NUMBER
エースの酷使、サイン伝達騒動……。
熱戦に沸いた甲子園の“影”を考える。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/08/25 08:01
2点差の9回に足をつり、審判員の助けを借りてベンチへ下がる常総学院の飯田。彼のような事態を減らすためにも、高校野球の“美学”について今一度考え直す必要があるだろう。
なにゆえ、そこまでエースの続投にこだわるのか。
22日に前橋育英(群馬)の優勝で終えた今大会、投手起用について、いくつか疑問に残る采配があった。
「マウンドに自分が上がるのが当たり前になっていました。でも負けて思ったのは、ずっと起用し続けてくれた監督に感謝したいということです」
そう語ったのは、鳴門のエース・板東湧梧だった。
板東はこの夏の徳島県予選の4試合を一人で投げ抜いてきた。
甲子園に入ってからも1回戦の星稜(石川)戦から敗れた準々決勝の花巻東(岩手)戦まで一度もマウンドを降りることはなかった。4季連続出場の鳴門にとって、今大会は優勝を狙っていたが、板東への負担が大きかったのは明らかだった。
「それは関係ないと思います」
鳴門の森脇稔監督にある質問をぶつけると、表情を曇らせた。
3回戦で鳴門は常葉菊川(静岡)を相手に17-1で勝利していた。この試合の終盤に、板東を休ませていたら、準々決勝の結果も変わっていたのではないかと尋ねたのだ。
板東の言葉を借りれば「エースがマウンドに立つのが当たり前」――という風潮が高校野球には依然としてある。接戦時にエースをマウンドから降ろせとまではいわないが、疲労や先の戦いを考えた時、控え投手に頼るという選択肢は決して間違いではない。
選手の疲労より、目先の勝利にこだわりすぎているように思えてならない。
地方大会から連投している各校のエースたち。
似たようなケースで、今大会の犠牲者になったのは木更津総合(千葉)の2年生エース・千葉貴央である。千葉は県大会で4試合34回を投げた同校のエースだが、前年の秋には右肩の故障歴があるなど、必ずしも万全な状態とはいえなかった。
2回戦の西脇工(兵庫)戦、千葉は右肩に痛みを抱えながらマウンドに上がった。
その投球練習の姿に、言葉を失った。
千葉は全力投球ができず、スローカーブを多投していたのだ。捕手の秋庭豪太によれば、「ストレートだと痛みが出るから、スローカーブを使った」という。
それでもプレーボール。千葉は先頭打者に6球全てスローカーブを投げた(結果は空振り三振)。
結局、捕手の秋庭がベンチに訴え、このあと千葉は降板した。