野球善哉BACK NUMBER
エースの酷使、サイン伝達騒動……。
熱戦に沸いた甲子園の“影”を考える。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/08/25 08:01
2点差の9回に足をつり、審判員の助けを借りてベンチへ下がる常総学院の飯田。彼のような事態を減らすためにも、高校野球の“美学”について今一度考え直す必要があるだろう。
サイン伝達はあったのか? 無かったのか?
一方、今大会は勝利への渇望という部分において、もうひとつ問題が噴出した。
それは、準々決勝の鳴門-花巻東戦で明るみになった。
8回表の2死二塁、花巻東が攻撃している場面。球審が突如、試合を止めた。
花巻東の二塁走者が捕手から投手へのサインを打者に伝達していると注意を与えたのだ。これは鳴門の捕手・日下大輝が訴えて、球審が確認したものだった。
高野連の指摘に対し、花巻東側が否定したことでこの疑いは収束に向かったが、今大会にはサイン伝達と思われる、あるいは、疑われる行為が多かったというのは否定できない。
というのも、取材を進めて行くと「相手がサイン伝達をしていた」という言葉を選手の側からいくつも耳にしたからだ。
チーム名は伏せておくが、あるチームの捕手がこんな証言をしている。
「僕が右打者のアウトコースに構えると、一塁のコーチャーが声を出し、インコースに構えると三塁コーチャーが声を出してきた。何とか対応するべきでしたが、気が付くのが遅かった」
また、同チームと対戦して敗れた別の捕手も同じような証言をした。
「僕のサインで、ランナーコーチャーの声が違っていた。中盤に、それを逆手に取ってサインを変えて上手く行ったんですけど、最後は……相手が上手く打ったんでしょう」
また別の試合になるが、あるチームのキャッチャーは、「セカンドランナーがストレートの時は顔付近を触っていた。サインを送っているんだろうなというのは感じていました。サインを変えようかというのも考えたんですけど、勇気がなかったです」
サイン伝達の対策を講じるチームまでも現れた。
その一方で、サイン伝達の対策を上手く講じてきたチームもあった。
それは、走者が出た時に遊撃手がセカンドランナーの前に立って、捕手のサインが見えないようにするというやり方だ。これではサインを覗くこともできないし、遊撃手が邪魔でサインを伝えることもできない。
この対策には恐れいったが、その遊撃手は、懇切丁寧に答えてくれた。
「相手がサインを送ってくるという情報があったので、監督さんの指示で、走者の前にポジションをとるようにと言われました。監督さんからは守備のことよりも、そっちを優先するように、と。ランナーの前にいたら、普通のポジションに入るのが遅れるんですけど、戻り遅れてもいいから、サインを送られないようにという指示でした。おそらく、サインは送られていなかったと思うので、上手く行ったと思います」