オフサイド・トリップBACK NUMBER
泥沼の買収騒動と屈辱の降格圏。
リバプールとジェラードは救われるか。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byLiverpool FC via Getty Images
posted2010/11/02 10:30
練習中のジェラードとホジソン監督が話し込んでいる風景。ふたりの肩に、名門復活の使命が重くのしかかる
「リバプール、リバプール、リバプール!」
赤いマフラーを掲げたサポーターが、誇らしげに鬨(とき)の声を挙げる。周囲では無数のカメラマンがシャッターを切り、マイクを片手にしたレポーターは早口でまくし立て始める。
場所はリバプールのホームスタジアム、アンフィールドでもなければ、2005年にACミランを倒して奇跡のCL優勝を遂げたイスタンブールでもない。サッカーとはおよそ縁遠い、ロンドン市内の高等法院(裁判所)の前だった。
10月13日、リバプールの買収交渉は大きく前進。司直はNESV(ニュー・イングランド・スポーツ・ベンチャーズ)という会社が新オーナーになることに事実上のゴーサインを出した。買収が成立しなければクラブは破産し、チームは勝ち点9を自動的に剥奪されることが決まっていただけに、サポーターが狂喜したのも当然だろう。
新体制の経営陣“NESV”は本当に信頼できるのか?
しかし胸をなで下ろすのはまだ早い。事件の細かい顛末は記事末に掲載した年表をご覧いただくとして、リバプールには他にも緊急の問題が山積しているからだ。
まずは新オーナーの経営方針にまつわる不安である。
たしかにNESVのオーナーであるジョン・ヘンリーは、ボストン・レッドソックスを再建し86年ぶりにワールドシリーズで優勝させた実績を持っている。リバプールの買収に当たっては、投資ファンドや銀行から莫大な借金をしたという報道もないし、前共同オーナーのジョージ・ジレットとトム・ヒックスのように、無謀な新スタジアムの建設計画をぶちあげたりもしていない。それでいて急務とされる選手補強に関しては、松坂大輔を例に引きながら「大枚を叩いて日本から選手を招いたこともある」と投資を惜しまない姿勢まで見せている。
ただし基本方針はあくまでも健全経営。クラブ側には無駄な出費を抑えた、身の丈にあった運営を求めていくだろう。このアプローチは経営理念としては正しいが、今日のサッカー界では補強予算の額が成績に直結しやすい。財政を立て直しながらチームを強化していくのは、容易な作業ではないはずだ。
経営の再建以上に困難な、ピッチ上のチーム再建。
経営の立て直し以上にやっかいなのは、チームそのものの再建である。
プレミアリーグの第9節を終えた時点で、リバプールの成績は2勝4敗3分。なんと20チーム中18位で降格圏内に入ってしまっている。
特に深刻なのは得点力不足で、1試合あたりの平均ゴール数はわずか1。それでも失点が少なければなんとかなるが、守備も堅固だとは言い難い。ポジション取りも悪ければカバーリングもこなれておらず、つまらないファウルで危機を招く場面が目立つ。
'90年代中盤、リバプールで「神」とまで崇められたFWのロビー・ファウラー曰く、「今のリバプールのプレーは、リーズが2部に降格した時よりもひどい」。
では、なぜリバプールはここまで堕ちてしまったのか。
最初に指摘できるのは、ロイ・ホジソン新監督の指導力不足だ。
ホジソンはインテルやスイス代表をはじめとして、様々なチームを率いた経験を持っている。また昨シーズンは、プレミアのフラムをヨーロッパリーグの決勝にも導いた。ホジソンにはラファエル・ベニテスの後任として多くの期待が寄せられていたが、今のところ完全な期待はずれに終わっている。
要因は他にもある。
フェルナンド・トーレスの不調、FWのディルク・カイトやDFのダニエル・アッガーなどの故障、新加入選手がチームにフィットしていない点。負けが混んで選手が自信を失ったことや、クラブの買収騒動もチームに悪影響を及ぼしてきたとされている。