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泥沼の買収騒動と屈辱の降格圏。
リバプールとジェラードは救われるか。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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photograph byLiverpool FC via Getty Images

posted2010/11/02 10:30

泥沼の買収騒動と屈辱の降格圏。リバプールとジェラードは救われるか。<Number Web> photograph by Liverpool FC via Getty Images

練習中のジェラードとホジソン監督が話し込んでいる風景。ふたりの肩に、名門復活の使命が重くのしかかる

ベニテスの負の遺産。破綻していたトロイカ体制。

 だが語弊を恐れず言えば、これらは一面の真実にすぎない。現在のリバプールの不調には、「ベニテス前監督の負の遺産」という根の深い問題がある。

 2004-05シーズン、ベニテスは監督就任1年目にしてCLを制覇。2006-07シーズンにもCLの決勝に進出した。以降、リバプールでは守備の要であるハビエル・マスチェラーノ、攻撃の組み立て役であるシャビ・アロンソ、チームのダイナモであるスティーブン・ジェラードという3人のMFがそろってプレーすることが大前提となった。

 しかしこの体制は、薄氷の上に成り立つものでもあった。

 ベニテスは選手補強の予算が少ないとこぼし続けたが、実は移籍市場での買い物が下手で、中途半端な選手を獲得してはすぐに放出するパターンを繰り返している。結果、3人の代わりをこなせる選手を確保できず、トロイカ体制が破綻すると同時に成績が急降下するような危険性は手つかずのまま残された。

 案の定、昨年夏にアロンソがレアル・マドリーに移籍するとリバプールはたちまち機能不全に陥り、2009-10シーズンを7位で終えてしまう。ホジソンがベニテスからチームを引き継いだ時点で、既に攻守の基本メカニズムは壊れていた。その窮状に追い打ちをかけたのが、マスチェラーノのバルサへの移籍だったのである。

あまりにも異なる、ホジソンとベニテスのサッカー哲学。

 さらに深刻なのは、ベニテスとホジソンのサッカー哲学に相当の隔たりがある点だ。

 前任者のベニテスは4-2-3-1のフォーメーションを土台に、イングランドサッカーのスピードやフィジカルの強さと、スペインサッカーのテクニックや戦術を融合させることを試みた。かくして生まれたのが速攻と遅攻、ロングボールとショートパス、サイドアタックと中央突破など、相反する要素を巧みに使い分けるモダンなスタイルだった。

 対照的にホジソンは、徹底的に引いて守備を固め、ロングボールをターゲットマンに当ててチャンスを狙うようなシンプルなスタイルを好む。昨シーズン彼がフラムで成功を収めたのも、古典的なイングランドサッカーの香りが漂う戦術によるものだ。

 これがマイケル・オーウェンとエミール・ヘスキーがコンビを組んでいた10年前のチームだったならば、ホジソン流のサッカーとも相性がよかったかもしれない。だが今のリバプールの選手たちは、ホジソン流のサッカーを実践するにはあまりに洗練されているし、ベニテス譲りのスタイルに慣れすぎているのである。

ホジソン続投か更迭か。迫られる究極の選択。

 とはいえ、ホジソンに責任がないなどと主張するつもりは毛頭ない。

 時間的な猶予を与えるべきだという意見もあるが、普通、トップ争いをしていてしかるべきチームが降格圏内に落ちれば、監督はほぼ間違いなくクビを切られる。それはJリーグでも同様である。

 ところが、リバプールにはホジソンを簡単に切れない事情がある。ホジソンは「イングランド人監督の切り札」として招かれた経緯があるからだ。仮にホジソンを解任して新監督を据えたとしても、チームはゼロからの作り直しとなり、やはり再建はずるずると遅れてしまう。

 続投か更迭か。新オーナーはまさに究極の選択を迫られているのだ。

【次ページ】 闘将ジェラードと名門リバプールが救われる日は来るか?

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