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<競泳育成の新スタイル> 平井伯昌コーチと東洋大水泳部、常識への挑戦 

text by

折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

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photograph byTakao Fujita

posted2013/07/19 06:01

<競泳育成の新スタイル> 平井伯昌コーチと東洋大水泳部、常識への挑戦<Number Web> photograph by Takao Fujita

左から田垣貞俊コーチ、山口観弘、金指美紅、宮本靖子、萩野公介、内田美希、平井伯昌監督。

萩野の5冠獲得に刺激を受けて、不調から脱却。

「10月後半くらいまでは良かったけど、ワールドカップなどでも泳いでいて『世界記録保持者』といわれると『なんかまた言ってるな』と思って嫌になった時期もあります。それで調子も落ちて苦しんだし、練習でも生活面でもけっこう怒られましたね。萩野や丈志さんと一緒に練習をするようになってからも、『同じことをやっていて、なんで俺だけ怒られるんだろう』というのもありました。でもふたりより指導期間が長いから言いやすいのかな、と思っていました」

 そう苦笑する山口だが、4月の日本選手権ではチームメイトに救われた。大々的にニュースになった萩野の5冠獲得に刺激されて、最後の200mを派遣標準を突破する2分09秒31で優勝。世界選手権代表に滑り込んだ。

「寮で同室になる萩野にあれだけ活躍されたら、自分もやらないわけにはいかないと思いましたね。記録としてはあまりよくないけど、自分の力で派遣標準を切ったのは大きい。周りは五輪で実績を残している人ばかりで、自分は世界記録を出したといっても五輪にも世界選手権にも出ていないし。そう考えるようになったら、世界記録のことも気負わないようになりました」

アメリカ留学を考えていた萩野も東洋大での競争に魅力を感じた。

 萩野は当初、アメリカ留学を考えていた。

「これまで通っていたところで続ける道もあったとは思うけど、新しい刺激や環境を求めていきたかったので、アメリカという選択肢も考えていました。トップ選手がたくさんいて、自分の力になるものも多いと思うし、水泳後の生活のためにもいいのかなって。実際にフロリダ大のコーチにも、『来てもいいよ』と言われていたけど、学力も必要だから無理をしないで大学を卒業してからでもいいかなと思い直したんです。それで同年代にも先輩にも強い選手がいる平井先生のところが、日本では一番いいと考えたんです」

 決めたのはインターハイの時だった。萩野から大学の相談をされていたという山口は、「インターハイが終わったあとの夜1時頃に東洋大に決めたとメールが来たんです。『夜中だぞ!』と思ったけど、小さな頃から怪物だった選手と一緒に練習ができるとわかって、楽しみが増えました」と笑顔で話す。

【次ページ】 選手間のアドバイスや話し合いから改良される泳ぎ。

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