オフサイド・トリップBACK NUMBER
セリエAの名門ローマが崩壊寸前!!
なのに……監督の未来が明るい理由。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byBongarts/Getty Images
posted2010/10/03 08:00
9月28日にはルーマニアのチーム相手にCLで初勝利をあげたラニエリ。名門ローマのプライドは保たれるのか?
それでもラニエリが監督として重用され続ける理由。
こう考えてみると、ラニエリが悪い意味において、いかに普通の監督であるかがよくわかる。
ところが意外なことに、ラニエリのような監督は職にあぶれないのである。
さしたる結果を出せずに職を追われた監督が、いつの間にか他のクラブの指揮をとっているケースはよくあるし、オフシーズンの玉突き人事がひどい時などは、顔なじみの監督たちが同じようなクラブ間を行き来しているだけのように見えることさえある。ラニエリなどはその典型の一人なのだが、この手のタイプは、いわゆる名門から中堅どころまで欧州各国のクラブを長年渡り歩いているような人物に多い。
ではなぜラニエリのようなタイプは重用されるのか?
監督の就活事情に詳しいイギリス人ジャーナリストは、次のように解説してくれた。
「大きな理由のひとつは、『即効性』が求められていることだと思う。どのクラブも限られたスパンですぐに結果を出さなければならない。名前と顔が売れている監督に対しては、経験や知識も豊富なはずだからすぐに結果を出してくれるだろうという期待が生じやすいんだ。
次はクラブの経営陣の考え方だ。どこのクラブも実績のない若手監督を起用して賭けにでるよりは、ある程度名前の売れている監督を起用する傾向が強い。万が一結果が出なかったときにも、ファンやクラブ内の対抗勢力に言い訳をすることができるからね。
最後はエージェントの力。近頃は複数のクラブに選手を納入している代理人の口利きで、監督がローテーション式に決まってしまうケースも増えてきている。しかも彼らは後任がすぐに見つかるように手配までしてくれるんだ。いずれにしても、若くて有能な監督が玉突き人事という“閉じた輪”の中に入っていくのは大変だよ」
「都合のいい男」という唯一にして最大の特徴。
早い話、ラニエリが就職口に困らないのは、クラブ側にとって「都合のいい男」だからなのだ。名前も顔も程々に売れているし、キャリア的にはチェルシーを率いたという金看板まである。またリーグ優勝やCL制覇といったような成績は望み得ないとしても、ある程度までは選手をコントロールしたり戦術を駆使したりして、そこそこの結果も残してくれる。そして何よりも、経営陣にとっては“扱いやすさ”という大きな魅力がある。人柄は温厚で年俸もべらぼうに高くはないし、他にいい監督が見つかったときにはクビも切りやすい。とりあえずの「つなぎ役」として、これほど便利な存在はいないのである。