REVERSE ANGLEBACK NUMBER
“2強”を出し抜いたゴールドシップ。
型を崩して勝った内田の深謀遠慮。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byAFLO
posted2013/06/26 10:30
3強対決を制した芦毛のゴールドシップ。一番人気のジェンティルドンナは3着、フェノーメノは4着に終わった。オルフェーヴルとの初対決はいつになるか。
内田騎手はなぜ得意のレースパターンを封印したのか?
圧倒的な1番人気に支持されながら5着に終わった天皇賞・春では、いつものレースパターンを見せながら伸びを欠いた。だから違ったパターンを選んだともいえるが、これは単に目先を変えるといったことではなく、宝塚記念というレースの性格とこの日の馬場状態をよく考えた末の作戦だった。
宝塚記念は梅雨時のレースで、良馬場の発表でもなかなか速いタイムの決着にはならない。今年も水曜日、木曜日にかなりの雨が降り、日曜にも少し降って良馬場の発表だったがいわゆる「パンパンの良馬場」ではなかった。
そういう馬場状態だとレースは瞬発力の争いよりも持久力の争いになりやすい。過去10年の上がりタイムを見ると、全て35秒台の決着になっている。東京コースの良馬場だとGIなら33秒台の決着になることも珍しくないが、それに比べると、宝塚記念は「消耗戦」になりやすい。
早々に仕掛けた内田騎手にライバル馬はしてやられた。
ゴールドシップは瞬発力では3強の中で一枚落ちる。ジャパンカップで32秒台の決め手を繰り出したジェンティルドンナや前走の天皇賞・春を除けばすべて34秒台以内で上がっているフェノーメノに比べると勝っても35秒台というレースもいくつかあった。
だからゴールドシップにとっては、ややパワーを要する今年の宝塚記念の馬場は願ったりだったのだが、内田はそれをさらにだめ押しするような形でレースを消耗戦に持ち込んだ。後ろから行くと思われたゴールドシップがすぐ横に来たとなれば、ジェンティルドンナもマイペースの3番手とは行かない。乗っていた岩田康誠がレース後に語っていたように、「無理に下げるわけにもいかず」1コーナー過ぎで少し脚を使ってしまった。戦力の無駄遣いをさせられた。それが最後の伸びに響いた。フェノーメノも苦手の馬場に加えてゴールドシップが早めに動いたことで、好位置を取るために動かざるを得ず、一層の消耗を強いられた。
単に馬場が味方しての勝利ではなかった。その条件を考え、いつもと違うレース運びを大胆にやってのけたところにこの日の内田の判断のみごとさがあった。
2着にはダノンバラードが入った。大きく離して逃げるシルポートの2番手で、実質的にはマイペースで逃げているようなもの。この馬も速い脚はないがなかなかへばらない。そのよさをよく理解して2着に残した川田将雅も、勝てないまでもあざやかな運びだった。