日本代表、コンフェデ道中記BACK NUMBER
W杯最終予選、ドーハのイラク戦で
ザッケローニの背中は何を語ったか。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byTakuya Sugiyama
posted2013/06/13 10:31
試合後、ザッケローニ監督は、4日後に迫ったブラジル戦については「これから15時間くらいフライト時間があるので、そこで考えたい」と語った。
記憶の中からよみがえるアジアカップ、ヨルダン戦。
ワイシャツ姿の背中に手ごたえらしきものが滲んだのは、31分のことだった。左サイドから清武弘嗣がクロスを入れると、ハーフナー・マイクが飛び込む。ヘディングシュートがゴール右へ逸れると、ザックはベンチ内のスタッフに話しかける。
41分には組んでいた腕を大きく広げ、太股へ振り下ろした。バチンという音が、記者席まで聞こえてくるようだった。右サイドからのクロスにハーフナーが飛び込んだが、惜しくもボールに届かなかったのだ。
2011年1月のアジアカップが、記憶のなかで立ちあがってくる。ヨルダンとの開幕戦だ。スタジアムは違うが、同じドーハで行なわれた一戦である。日没時の礼拝を告げるアラビア語の呼びかけが、記憶を引っ張り出す役割を果たした。
ヨルダン戦のザックは、今日とは逆側のテクニカルエリアで落ち着かない時間を過ごしていた。前半終了間際に先制点を喫し、なかなか追いつけない展開が、彼の背中に苛立ちを貼りつかせたのだった。
アジアカップのヨルダン戦は、グループステージ突破のために負けられない一戦だった。今回のイラク戦は、最終予選突破後の消化試合である。ただ、4日後にコンフェデレーションズカップのブラジル戦を控えるだけに、「勝ちにこだわろう」とザックは選手にハッパをかけていた。3月から勝利を逃したままで、ブラジルへ向かうわけにはいかない。
ザックの試合中のアクションには、共通の理由がある。
岡崎慎司が89分にゴールを決め、1対0でアディショナルタイムに突入する。ザックは依然として、テクニカルエリアで立ちっぱなしだ。
敵陣で得たFKから、香川真司がボールを失った。「なぜだ!」と言わんばかりにザックは両手をひろげ、自らの太股に感情の行き場を求める。
試合中のザックが見せるアクションには、共通の理由がある。警戒心と集中力を欠いたプレーが、彼には許し難いのだ。ブルガリア戦を前に「インテンシティ」という単語を持ち出したのも、ケアレスミスを出来るかぎり減らすためだっただろう。
そういう意味で気になったのは、自陣でのファウルの多さだ。リスタートからの失点が課題にあげられながら、この日も不用意な反則が目についた。リスタートのきっかけを、こちらから差し出していたのである。