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誰が買う? どこを走る? 最高出力916PS! 価格1億円!! 世界最高のドライバーズカー。 

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奥山泰広&高成浩

奥山泰広&高成浩Yasuhiro Okuyama & Seikoh Coe(POW-DER)

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photograph byMcLaren AUTOMOTIVE

posted2013/06/14 06:00

誰が買う? どこを走る? 最高出力916PS! 価格1億円!! 世界最高のドライバーズカー。<Number Web> photograph by McLaren AUTOMOTIVE

スポーツカーの領域とマクラーレンP1の関係とは!?

   う~む、第2次世界大戦後、こうした住み分けを破るメーカーが出て来たんだよ。言わずと知れたポルシェとフェラーリだな。ポルシェは戦後すぐに2人乗りのミッドシップを開発するんだけど、量産されたのは2+2のリアエンジン・リアドライブで、それはスポーツカーというよりはGTと言ったほうがいいクルマだったんだよ。

奥山   そのリアエンジン・リアドライブって、もしかして「911」?

   もしかしなくても911だね。その一方で、フェラーリはお古のレーシングカーを金持ちのカーマニアに売ってたんだけど、これがいい商売になるってんでレーシングレプリカを作るようになったんだ。ところが、レーシングレプリカにエアコンはないし、ペダルは重いから、金持ちの客から文句が殺到。で、フェラーリはどうしたかと言うと、外見はレーシングカーで中身は市販車というクルマを作ったってワケ。

奥山   それって、もしかして、僕らが子供の頃に熱狂した「スーパーカー」?

   もしかしなくてもスーパーカーだね。その後、さらにスーパーカーのレプリカ、すなわち外見がスーパーカーで中身が乗用車という「スペシャリティカー」が現れるんだ。こうなると、もうスポーツカーの定義はめちゃくちゃ! だから俺は「だと思う」とまとめたんだよ。

奥山   なるほどね~。僕はポルシェやフェラーリは、まぎれもないスポーツカーだと思っていました。

   ポルシェもフェラーリも、乗っている人はみんなスポーツカーだと思ってドライブしている筈。俺はそれでいいと思う。なんたって、どちらも運転していて楽しいもんな! 意識を集中してクルマを操り、汗を流して、気分爽快になるのって、野球やテニス、サッカーとも同じことだろ? そういう気持ちにさせるクルマかどうかが大事なんじゃないかな。

奥山   では、このマクラーレンP1はスポーツカーなんですか?

   うむ。マクラーレンがレースに参戦して、そのレースから技術的なフィードバックを得ている……というバックボーンについては問題ない。それどころか、このエアロダイナミクスに満ちあふれたフォルムや、軽量カーボン・ファイバー・テクノロジーが集約したボディなんて、レーシングの実績と技術そのものだ。だからマクラーレンP1は、スポーツカーとして由緒正しいと言える。

奥山   さっき高さんが言った「ドライブしていて楽しい」という基準はどうなんですか? 916馬力なんて僕にはとうてい操れませんから、楽しいなんて気持ちになれませんよ。

   そのクルマのパフォーマンスを操れるかどうかは、論点が外れていると思うんだけど。では、マクラーレンP1のスポーツカーとしての素性を、赤裸々に解説してみようか?

奥山   ふんふん。

スポーツカーの物理学からマクラーレンP1の素性を探る。

   スポーツカーは、まず軽量であること! 軽ければ加速しやすく、ブレーキも良く効き、カーブも曲がりやすいからな。その点、マクラーレンP1の車重は1395kgだ。

奥山   1400kg弱ってことは、小型の国産乗用車とほぼ同じですね。

   シャシーやボディ、インテリアなどに最軽量かつ最強度を誇るカーボン繊維を採用しているからね。まさにカーボン・ファイバー・テクノロジーにおける世界的なパイオニア、マクラーレンの技術の粋だな。で、次にZ軸周りの慣性モーメントが少ないこと!

奥山   あの~、Z軸周りって? 慣性モーメントって何です?

   クルマを中心にして、独楽みたいにクルクル回るかとどうかってこと。エンジンなどの重量物が中心にあればあるほど、運動性能が高いってワケだ。その点、マクラーレンP1はミッドシップだから問題点なし。次に、重心が低いこと! 低重心であればあるほど、コーナーリングでの安定性が増すからね。

奥山   おっ、これは見ればわかります。マクラーレンP1の車高は極端に低いですから。ボディと地面の隙間に、指さえも入りにくいゾ。

   必ずしも「低重心=車高が低い」ってことじゃないんだけど。まぁ、いずれにしてもマクラーレンP1が低重心であることは間違いない。で、3番目が、ワイドトレッドであること! これがスポーツカーとして、重要なファクターなんだ。

奥山   というと?

   ホイールベースを前後トレッドの平均値で割った数値、トレッド・ホイールベース比をチェックするんだ。マクラーレンP1のホイールベースは2670mm、トレッドは前1658/後1604mmだから、「2670÷1631」で、トレッド・ホイールベース比は「1.64」だ。1.6以下がスポーツカーとして理想値なんだけど……。

奥山   あれっ、ちょっとだけ数値が大きいんじゃありません?

   うむ。これはマクラーレンP1の大パワーが関係しているな。つまり、916馬力をフルに発揮して、350km/hで走行するには、ロング・ホイールベースの安定性が必要になるんだ。でも、前のトレッドを広くすることで、良好な旋回性も実現しているんだ。つまるところ、マクラーレンP1はスポーツカーとして、優れた資質を備えていると言えるってワケだ。

奥山   ほう、こんなに理論的な高さんを初めて見ました。

   へへん、ちったぁ見直したか!? 以前、某モータージャーナリストと一緒にクルマの連載をしたことがあって、その人に叩き込まれたんだ。クルマのスペック表を分析すれば、乗らないでもそのクルマの素性がわかる!……ってね。

奥山   なんだ、その人の受け売りか(笑)。

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