ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
道に迷い、ヒルに襲われるも……、
「トレイルが日常、街が非日常」に。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/06/14 12:45
トレイル上にある「マクドナルド」を示す看板を前に興奮する井手くん。
今日もまた、歩いている。
歩いていると、お腹が空く。まして、山と山をつないだダイナミックな自然歩道であり、売店などないパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を歩いていると、その空腹感たるや、尋常ではない。
1日に20から25マイルほどを毎日歩くので、池波正太郎先生よろしく『散歩のとき何か食べたくなって』なんて、悠長で洒落たことは言っていられないのだ。
あなたが食べた昨日の食事を思い出してほしい。それをリュックに詰めることを想像していただければ、僕がどんなに重い荷物を背負っているかわかるに違いない。
町には5日から1週間に1回下りてくるので、日数分の食糧を持ち運ぶことになる。単純計算で1日3000キロカロリーは取らなくてはいけないのだが、実際にはそんなに持ち運ぶことは出来ない。武士は食わねど高楊枝。
スーパーへ向かい、トレイルでの食糧を用意する。これは町に下りた時の最も大切な仕事の一つだ。今回、Big bear city(ビッグベアシティ)という町で買ったのは以下の通り。
ビーフジャーキー2袋
ベーグル1袋
シリアル2箱
ミックスナッツ5袋
スパム1缶
日清のインスタント麺(4つ)
お湯で出来る簡易マカロニ
スーパーのおばちゃんは「ハイカーでしょ。割引きしてあげるからもっと買って行きなさい」と物知り顔で親切だ。
この町もまた、ハイカーが毎年訪れる観光地なのだ。
“大熊町”にいくつもりが、誤って“大熊湖”に。
このBig bear cityという、なんとも物騒な名前の町にたどり着くことが出来たのは、幸運だったとしか言えない。
前回の記事の終盤(7ページ目)で登場したJimとLinda夫妻にヒッチハイクで降ろしてもらった町は、僕の英語が拙かったのであろう、Big bear lake (ビッグベアレイク)という隣町。 大熊町にいくつもりが、誤って大熊湖に来てしまったという感じだろうか。
気づいたのは車から伸びたJimの手がグーサインを見せて去ってしまった後。途方に暮れながら、町へ向かうバス停を探して歩く。やっと見つけたバス停には時刻表がない。周りにいる人に聞いても、「定刻はない」という。気まぐれなバス。
仕方なく、車が飛ぶように通行する二車線道路に親指を立てながら町の方向へ歩く。立てた親指が弱々しいのが自分でもわかる。距離にして5マイルほどだろうか。トレイルならなんてことない距離も、舗装された車道を歩くのは精神的に辛い。