ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
メキシコ国境からPCTハイク開始!
ガラガラヘビ&エンジェルと出会う。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/05/14 10:30
乾燥した砂漠地帯を歩き始めた井手くん。風が強く、ホコリっぽいため、すぐに鼻くそが溜まるという。
川で水を浴びたり、洗濯したり……。
トレイルは山だけでなく、しばしばハイウェイを跨ぐ。大型トレーラーの音が聞こえる時、僕はここがアメリカなのだと改めて感じ、胸が高鳴る。思わずセルフタイマーでハイウェイを背景にパシャリ。
序盤はデザートエリアと呼ばれ、カリフォルニア南部特有の植生が見られる荒野の山を往く。地面に卵を落とせば、あっという間に目玉焼きになってしまいそうな温度。
足裏から、マメの痛みなのか、砂が蓄積した熱なのか、あるいはその両方かもしれぬエネルギーを感じながら歩く。
サボテン、というひとつの単語では言い表せない沢山の種類の植物。トカゲ、そして出た! ガラガラ蛇! 灼熱の太陽を忘れるほどヒヤリとさせられる。視力が悪い僕は、しばしばうっかり踏みそうになってしまう。
序盤はとにかく水の重さに困らされた。今年は例年以上に乾燥が酷く、水場となる川の多くが干上がっている。何もせずとも喉は乾くので、長い区間水を大量に持たなくてはならない。スタート地点で1週間分の水と食糧をいれたザックを計ると、ザックの耐荷重量を上回ってしまった。背中に積んだ水は恨めしくもあるが、命の水でもあるのだ。
川や馬用の貯水槽に着けば、浄水器を使って飲み水を作る。可能であれば、川で水を浴びたり、洗濯したりする。こんな経験、なかなか出来るものではない。額から黒い水をたらし、目の前に咲いたサボテンの花を見ながらニヤけてしまう。
ラム酒を片手に大声でしゃべる、カナダから来たナイスガイ。
気温が高くなる昼前後に日陰を見つけるのは難しい。巻道が多いとはいえ、そもそも山の標高が2000m前後であるし、植生が低く、ハイカーの真上には太陽しかないのだ。
日本ではあまり見かけないが、アメリカのハイカーたちは日傘を指しながら歩く。川辺に座り込み、日傘を指している光景はまるで印象派の絵のようだ。ボストンで起きたテロがこの国のことでないみたいに、トレイルは、ハイカーは、ハッピーでピースだ。
1週目にも関わらず、僕も砂漠エリアに参ってしまい辛くなることがあったが、それも含めて愉しんでいる。すれ違う女の子が、こっちが赤面してしまうような笑顔で「次の水場まで5マイルよ!」なんていうので、「そうだよな。今を目一杯愉しもう」と思うのだ。カナダまで歩くことを考えたら気が遠くなるけれど。
そんなことを考えていたら、すぐにカナダを意識させる人物が登場した。名をRUM MONKEY といい、ラム酒を片手に大声でしゃべるナイスガイだ。額にカナダ国旗を巻いた彼の故郷はバンクーバー。まさに彼にとってPCTは「歩いて家に帰る道」なのだ。
「家へ向かう(home bound)から、さしずめ俺はhoboってとこだ。おっと、こっちのトレイルネームのほうがクールだな。ガハハ」
彼にはこの町で特大のピザをご馳走になった。Sサイズを頼んだのに、ここが日本なら間違いなくLサイズだ。他のハイカーがそうしたように、僕も残りを持ち帰り、明日の朝食に充てる。
「ピザはテントの中に入れておけよ。さもないと、ネズミが箱ごと食い荒らしにきちまうからな」
彼はラージサイズのピザを両手に抱えて笑う。
明日も早い。彼の言葉を思い出しつつ寝袋にくるまる。これから僕は本当に沢山の夢を一夜に見るんだ。