ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
メキシコ国境からPCTハイク開始!
ガラガラヘビ&エンジェルと出会う。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/05/14 10:30
乾燥した砂漠地帯を歩き始めた井手くん。風が強く、ホコリっぽいため、すぐに鼻くそが溜まるという。
4月22日、出発日の朝だ。
時差や機内泊のことを考え、昼前までゆっくり寝ていようと考えていた。それでも、気持ちが昂ぶっているのか、6時過ぎには目が覚めてしまう。
スーツを着た出勤前の父が、部屋へそっと入ってくる。彼はなにか声をかけようとしたが、素直になれなかった僕は寝ぼけたふりをしてしまった。こうして父が毎日朝早く仕事に出て行くからこそ、僕のこの身勝手な旅が許されるというのに。
母は空港まで見送りに行きたいと言ったが、サークルの仲間たちが見送りにくると知っていた僕は、気恥ずかしさから、最後までそれを許すことが出来なかった。リビングのカレンダーには何カ月も前から僕の出発日にマークがついていたのに。
背中に一つ、お腹にもう一つザックを背負い、不安混じりの顔を浮かべ、ふらふらとよろけながら家を出た。
息が苦しい。浮き足立つとはこういうことをいうのだろう。とにかく僕はパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)に向け、旅路に立った。
「とってもアホなことに、時差の計算を間違えていました」
父を演じる橋爪功と一緒に鰻を食べる次男役の妻夫木聡に前日の自分を重ね、センチな気持ちで観賞した『東京家族』が終わったころだろうか。聞きなれない英語の機内放送で着陸が近いことを知ると、僕は思わず、笑ってしまった。
時差の計算を間違えていたのだ。ロサンゼルス到着は現地時間で翌日だと思い込んでいた。着陸時間が離陸時より前になるなんて僕には想像できなかった。大学生なのにすみませんという感じだ。
就活中なのだろう。空港では、スーツ姿も混じるサークルの友人達に仰々しく見送ってもらい、機内でしんみりとしていたタイミングだったので、笑顔での出発となったことを前向きに捉える。
そして到着した乗換地点のロサンゼルスで、さらに予期せぬ事態が起こる。
搭乗予定の便がキャンセルとなったのだ。幸い代替便を用意してもらえたが、目的地のサンディエゴに到着するのは深夜。トレイルに出るまでの間泊めてもらう予定だったエンジェル(トレイルを歩くハイカーを無償で家に泊めてくれたり、食事を提供してくれたりする、まさに天使のような人たち。多くは過去に自身もトレイルを踏破した経験がある)にメールを送る。搭乗便のナンバーを教えてあったためだ。
「とってもアホなことに、時差の計算を間違えていました。伝えていた到着日の前日(つまり今日)にサンディエゴに着く予定です。それも深夜に。迎えにきてもらうのは申し訳ないので、今夜は空港で一夜を明かします。翌朝ピックアップしてもらえないでしょうか」