ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
メキシコ国境からPCTハイク開始!
ガラガラヘビ&エンジェルと出会う。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/05/14 10:30
乾燥した砂漠地帯を歩き始めた井手くん。風が強く、ホコリっぽいため、すぐに鼻くそが溜まるという。
元大手自動車メーカー勤務のスーパーおじいちゃん。
もう一人、日本人との出会いがあった。名をTOYOさん。氏はトレイルネームとは全く関係のない大手自動車メーカーに勤務し、定年退職した今、年金で旅行などを愉しんでいるという。
昨年にPCTの一部でもある「ジョン・ミューア・トレイル」(JMT)を踏破。自信がついたので今年はPCTに挑戦するという、スーパーおじいちゃんである。
彼がはじめにJMTに挑戦した理由は、マウントホイットニーに登りたかった為だという。ホイットニーはアラスカを除いた全米最高峰の山で、PCT、JMT共にルートの一部となっている。
ホイットニーの登頂パスは人気が高いため入手が難しいが、一方でロングトレイルのパミッションは申請さえすれば、ほぼ通るのだという。アバウトすぎるぞ、アメリカ。トレイルに名を冠している自然保護の父、ジョン・ミューアが生きていたら、髭面の顔をしかめ、首をかしげるに違いない。
ここからが本当の始まりだ。一人でアメリカの大地を踏みしめる。
翌朝、ハイカーに振舞われた特大のベーグルを貧乏根性で2つ、まさにアメリカンといった趣の薄いコーヒーで流し込み、なんやかんやの手続きを終えて、10時過ぎに次なる目的地であるトレイルヘッドへ向かう。まだまだパーティを満喫すべく居残るハイカーたちは、「ハッピートレイル!」「グッドハイク」と声をかけてくれる。
ここからが本当の始まりだ。一人でアメリカの大地を踏みしめる。
1時間程歩くと、最初のハイカーと会った。2人組だ。一人は自然観察員、相方は自ら「クライムバム(climb bum)」と名乗っていた。「登山狂」と自認している彼の笑顔が眩しい。
「俺たちは毎日この時間(11時頃)には日陰で昼寝をとるぜ。さもないとこの暑さじゃ溶けちまうよ」
僕は高田渡の『アイスクリーム』の歌詞を思い浮かべる。なるほど、溶けるとお行儀が悪くなってしまう。郷に入りては郷に従え、そうだね。僕も極力そうするよ。
笑顔で返して先へ進む。昨晩振舞われた、チーズたっぷりのブリトー、そして今朝のピーナツバターを塗りたくったベーグルを脳裏に浮かべる。今日はガツガツ歩けそうだ。