ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
メキシコ国境からPCTハイク開始!
ガラガラヘビ&エンジェルと出会う。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/05/14 10:30
乾燥した砂漠地帯を歩き始めた井手くん。風が強く、ホコリっぽいため、すぐに鼻くそが溜まるという。
歩き出してから約一週間の濃厚な日々。
僕はこの文章を、出発地点から109マイル程歩いて到着したWarner Springs(ワーナースプリングス)という小さな観光地から書いている。今夜はここのコミュニティーセンターに併設されたキャンプ場で眠る。
歩き出してから約一週間。アメリカのスイーツみたいに濃厚な日々であったが、実際に何をしていたのかと問われれば「歩いていた」と返す他ない。
まだほんの序盤だが、トレイル自体も高山地帯から砂漠、そして湿地帯まで、とにかくバラエティに富んでいる。日本の登山道のそれと異なり、スイッチバックと呼ばれるジグザグの緩やかな道は、僕を取巻くワイルドな環境からは想像出来ないほどに歩きやすい。控え目に立てていた行程計画より2日早く、この小さな補給地点に着いた。
初日はGOKUさんと共に、15マイル程歩いてキャンプをすることにした。翌日には20マイル地点にあるモレナ湖にて、ハイカーの為のキックオフパーティが開かれる。僕もGOKUさんも出席予定だったが、初日は静かにキャンプを愉しみたいと考えたのだ。お互いのことを語り合いながら歩くと、あっという間に日が暮れた。
東日本大震災のことを聞かれて言葉に窮す。
明けて翌日、5マイルほど歩いてモレナ湖へ。
ここで開かれるパーティでは、水場の枯れ状況から、残雪量の報告といった重要なリポートもあれば、PCTに関する映画の上映会、そして「ベンダー」と呼ばれるアウトドア業界の出店等がある。
参加者はハイカー、エンジェル、その他併せて300人ほどだろうか。PCTのスルーハイク(4200kmを歩き通すこと)は、各自が勝手に挑むものであると同時に、こうしたパーティに立ち寄るなどイベント的な側面もある。長年の文化的蓄積によるものだろう。
このパーティで、僕は沢山のハイカーやエンジェルと顔見知りになった。中でも忘れられないのが、会場から少し外れたところにバンを停め、控えめにハイカーをもてなしていたエンジェルだ。
クッキーやゆで卵、そしてルートビアと呼ばれる不味い炭酸ジュースを頂き、彼との話に花を咲かせる。そのうち彼は、東日本大震災のことを尋ねてくる。僕は語るべきものを多くは持っておらず、また英語で適切に自分の意見を伝える力もなかったので返答に窮してしまう。すごく悔しい。彼は気を使ったのか、話題を変える。
「日本海から太平洋に向かって日本アルプスを7日で縦断するレースがあるらしいな。ありゃクレイジーだぜ。なにが楽しいんだか」
僕も頷く。「トランスジャパンアルプスレース」のことだ。そういえば日本では「ウルトラトレイル・マウントフジ」(UTMF)が行われている頃か。知り合いが何人か出走していることを思い出す。