プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人・菅野智之も陥った“魔球”の罠。
シーム系の変化球に潜む危険とは?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2013/05/12 08:01
巨人のルーキー菅野は、6試合に登板してハーラートップタイの4勝(1敗)を挙げ、防御率は2.38(5月9日現在)。入団まで1年間の浪人生活を選択したが、そのブランクを感じさせない安定した投球を見せている。
巨人のルーキー・菅野が陥った大乱調の理由とは?
5月9日発売の「Number」828号で巨人のルーキー・菅野智之投手の取材をした。
「やっぱり基本はストレートなんだと思っています」
菅野は、プロの世界に飛び込んでみて改めて考えた自分のピッチング観をこう語っている。詳しい話は雑誌を読んで頂くとして、その中で彼は確かに真っすぐの大切さを自覚していると話していたのだが、その直後に投げた試合ではシーム系の変化球を使ったピッチングで痛い目にあってしまった。
5月4日の広島戦。
プロ6試合目の登板となったこの日の菅野は、初回からストレートも140km台後半をマーク。同時に右打者のインコースに食い込みながら沈むワンシームも非常に切れて、快調なピッチングを繰り広げていた。
ところが、だ。
6回までは完封ペースだったのに、7回に突然乱れた。この試合まで過去5試合、35イニングで6つしか許していなかった四死球を連発。しかも無死一・二塁のピンチでは倉義和に内角を狙ったストレートが抜けて押し出し死球を与える大乱調になってしまったのだ。
シーム系の威力を増そうとすると、他の球種に悪影響を与える!?
あれだけコントロールのいい菅野が、なぜここまで乱れたのか?
ヒントは試合後の菅野のこんな言葉に隠れていた。
「回の終わりまで投げられなかったのが反省点ですが、今日の収穫はワンシームというボールが右打者に効果的だったことです。その感覚を忘れないようにしたい」
実は、菅野が収穫として挙げたこのワンシームというボールには、狙い通りに決まると面白いようにバッターを打ち取れる“魔球”のような威力とともに、諸刃の剣ともいえる怖さも潜んでいる。
ワンシームはボールのシーム(縫い目)1本だけに指をかけて投げ、真っすぐに近いスピードで利き腕の側(右投手なら右側)に沈みながら曲がるボールである。基本的にはツーシーム(これは2本のシームに指をかけるからではなく、回転したボールの縫い目が2本見えるからこう呼ばれている)と同じシュート系の球種といえる。
このシュート系のボールというのは、少し身体を開いてひじを下げていくとどんどん曲がりが大きく、鋭くなっていく。サイドスローの投手がシュート系のボールを得意とするのは、投げ方自体がボールに横回転を与えるのに適しているから、という理屈だ。
その一方で、オーバーハンドの投手はひじが下がっていくと、身体は縦回転なのに、腕の振りがどんどん横回転に近づいていってボールの威力も、切れもなくなっていく。指のかかりが悪くなって抜け球が多くなり、制球も悪くなってしまう。
要はワンシームやツーシームの威力を増そうとすると、真っすぐの威力が落ちたり、他の球種に悪い影響を与えたり、ボールが抜けて制球が悪くなったりするばかりか、フォームそのものがおかしくなってしまう危険性をもはらんでいるということなのだ。