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松井秀喜に名将の資質アリ!?
仰木彬と重なる「多面性」の魅力。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHochi Shimbun/AFLO
posted2013/05/08 12:05
5月5日、国民栄誉賞授与式、松井秀喜引退セレモニーの後に行なわれた始球式。松井氏は、長嶋茂雄氏から球の高さを指摘され、思わず苦笑。
松井秀喜は、語る人によってまったく人物像が異なる。
「本質は短気でわがままな男」
星稜高校時代のチームメイトがそう話していたことがある。
今のイメージにそぐわないが、そう受け取られる気質を持っていたというのもわからないでもない。
松井は決して群れない男だ。巨人時代もチームメイトと食事に行ったりすることはほとんどなかった。いわゆる「一匹狼」である。
先輩などに元気よく「おはようございます!」と言えるようなタイプでもない。そして、何度となく報道されたように遅刻癖もあった。それを「わがまま」と解釈する人がいたとしても不思議ではない。
しかし巨人時代、シーズンオフに練習パートナーを務めていた元打撃投手の北野明仁はこう言う。
「僕と練習をしているときは一度も遅刻してきたことがなかった。5分ぐらい遅れるにしても、必ず電話があった」
北野の中にいる松井は誰よりも時間に律儀な男だった。
松井も自分ひとりのために練習に付き合ってくれる人を待たせるわけにはいかないと思ったのだろう。もう一つは、北野の真面目な性向を考え、それがベストな付き合い方だと判断したのではないか。
松井は話す相手を見て、その内容や雰囲気を変えていた。
私の個人的な体験でもこんなことがあった。
取材中、松井が冗談半分に言ったことを、ある記者に軽い冗談のつもりで話した。すると、その年配の記者は「松井はそんなことを言ってたのか!」と怒り始めたのだ。別にその人に対する中傷でも何でもないのに。
私の中での松井はウィットに富んだ人物で、いかにもそういうことを言いそうな印象があった。だが、その記者に対しては冗談が冗談にならないことがあることを見抜いていたのだろう、そういう面は隠していたのだ。