三食見学ツアーBACK NUMBER
大貫友梨亜/新体操
「小食でも1日中動けるのはなぜ?」
text by
芦部聡Satoshi Ashibe
photograph bySatoshi Ashibe
posted2010/08/16 06:00
9月の世界選手権が目標。五輪は「まだ頭にないです」
―――しなやかに舞う妖精の関節と消化器官は謎だらけ―――
東京都下にある瀟洒なマンションのチャイムを朝の8時に鳴らす。「どうぞ」という凛とした声とともにオートロックのドアが開いた。部屋の前に着くと、大貫友梨亜さんは扉を開けて待っていてくれた。早朝から押しかけられて迷惑だろうに、笑顔で迎えてくれる。
大貫さんは新体操の日本代表選手だ。東京女子体育大学出身で、現在もOGとして競技をつづけている。ご実家は都内にあるのだが、練習場所である同校の近くでひとり暮らし中だ。彼女が朝食を用意しているあいだ、きれいに片付けられた部屋を見回していると、咎めるような視線が突き刺さる。うら若き女性の部屋におっさんを解き放つ危険性を懸念したのか、普段は同行取材することの少ない担当編集者がくっついてきたのである。
貴重な機会だからきみも目に焼き付けておきたまえと抗弁しているうちに、キッチンからトレイが運ばれてきた。テーブルに置かれたのは、バナナ1本とオレンジジュース1杯。これから練習があるというのに、たったのこれだけ?
「朝はあんまり食べないんです。ギリギリまで寝てしまって、何も食べずに練習することもあるし……。でも、体力はもちますよ」
注意! 新体操選手の真似は非常に危険です。
あっという間に食べ終えると、自転車にのって大学に向かった。朝9時過ぎに体育館にはいると、大貫さんはストレッチをはじめた。バーを握り、後方に蹴る。後頭部に触れそうなまでに脚が上がる。動きを真似ると、激痛が腰を襲った。立位体前屈では床上30センチが精一杯の運動不足の中年にとっては、ぎっくり腰を引き起こしかねない危険な行為だ。
「体が温まっていないと、私も痛いですよ」
大貫さんは笑うが、そんな次元の体ではない……。おとなしく座って練習を見学する。
たっぷり1時間ほど費やして体をほぐすと、ボールを手に取り、演技の練習に切り替えた。音楽を流し、試合同様のプログラムをリハーサルする。ジャンプ、前転、開脚。高く放り上げたボールを両足でキャッチする。身のこなしは華麗だが、運動量は激しい。コーチの秋山エリカ准教授のアドバイスに耳を傾け、納得できるまで同じシーケンスを繰り返す。
「彼女の武器は柔軟性。長年トレーニングを積んでも動きが硬い子もいる。しなやかさは天賦のものなんです」と秋山コーチは評価する。努力では得られない才能を大貫さんは持っている。