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日本の南アW杯報道は妙な「バラ色」。
「ネズミ色」の現地情報も大事では?
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byAFLO
posted2010/07/21 10:30
日本のパブリックビューイングでは連夜の大盛り上がりを見せた
帰国して丸3日が経過した。
南アフリカで過ごした1カ月強の日々を思うと、とても不思議な気分に襲われる。東京の日常とは何から何まで異なる、まさに別世界から帰還してきたような感じだ。虚脱状態に陥っていると言ってもいい。
南アは冬で、日本は夏。
暖房が必需品だった国から、冷房なしでは辛い日本に帰ってきたのだから当然かもしれないが、日中と夜間とで気温差20度は当たり前という感覚は、日本では絶対に味わえないはず。日中は半袖で過ごせるぐらい気温が上がるのに、夜になると一転、ダウンなしではいられなくなる国。
期間中を通して、僕はヨハネスブルクにアパートメントを借りていたわけだが、雨に降られた日は、僕の日程のなかで1日もなし。空気は乾燥しまくっていた。
おまけに標高が高いので空気が薄い。世界でも類を見ない厄介な気候に、僕などはすっかりやられてしまったクチだ。普段、風邪など滅多に引かないのに、1カ月間ほぼ毎日、風邪薬などを飲み続けていたという事実に、我ながらビックリする。
開催都市への思い出がこれほど少ないW杯は初めて。
だから、高温多湿の日本の夏をあまり不快に感じない。暑い最中、積極的に街を歩いている。
町中を自由に歩くことができなかった南アでの生活と、そこが最も異なる点だ。
開催都市への思い出が、今回ほど希薄だったケースはない。空港とホテルとスタジアムを、タクシーやシャトルバスで行き来するのみ。町なかのレストランで外食をしたのは一度きりしかない。
風景的な思い出が、決定的に不足しているのだ。つまり今回の旅はけっして快適ではなかった。
それに加えて、FIFAのメディア対応も悪すぎるものだから、「来るなら来てみろ!」と脅されているような毎日だった。
その1カ月強の生活は、色にすれば「ネズミ色」。
「バラ色」の毎日を送っていたわけではまったくない。旅というよりもサバイバル。身体は変な緊張感に、絶えず襲われていた。