杉山茂樹のサッカー道場BACK NUMBER
日本の南アW杯報道は妙な「バラ色」。
「ネズミ色」の現地情報も大事では?
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byAFLO
posted2010/07/21 10:30
日本のパブリックビューイングでは連夜の大盛り上がりを見せた
日本国内でのW杯報道は、現地の空気感が皆無だった。
サッカーそのものの思い出が希薄になるのは当然だ。観戦した22試合の試合内容が、いつものW杯より、サッとイメージできにくいのだ。試合内容をゆっくり振り返る余裕がなかったからにほかならない。
日本がベスト16に進んだことは、そりゃ僕にもうれしい出来事だったけれど、3日もすれば感激は萎んでいた。準決勝が終わる頃には、遠い昔の出来事になっていた。「バラ色」は束の間の出来事。喜びに沸く日本のお茶の間観戦者との間には、決定的な温度差を感じずにはいられなかった。
帰国して、実際に今回のW杯報道を見たり聞いたり、録画してあったビデオに目を通すと、違和感はいっそう膨らむ。そこで紹介されている世界は、何から何まで「バラ色」。現地の空気感を思い出させてくれるような、つまり「ネズミ色」的な要素を垣間見ることは、今のところできずにいる。
全英オープンは何故現地の空気感を伝えられるのか?
そんななかで、ありのままが伝えられていたと思ったのが、南アのルイ・ウーストハイゼンが優勝した「THE OPEN」ことゴルフの全英オープンだった。石川遼くんにスポットを当てすぎているような気もしたが、それでもお茶の間には現地の空気感がたっぷり伝わってきた。セントアンドリュースに行った気が味わえたというか、現地に行ってみたい気になったというか、ともかく、テレビはありのままを紹介していた。
ゴルフ場の18ホール界隈にほぼすべてが集約されている「THE OPEN」と、スタジアム内だけですべてを語ることができない「W杯」とを簡単に比較することはできないが、W杯帰りの僕には、「THE OPEN」の中継が、とてもナチュラルで心地よいものに見えた。
いったいなぜか。「THE OPEN」は、東京発ではなかった。現地発だった。青木功プロ、羽川豊プロ、松岡修造さん、戸張捷さん、森下アナ。登場する語り手、すなわち情報の送り手はすべて現地にいた。セントアンドリュース発100%だった。
かたや南アW杯は、現地から登場するのは試合の実況と解説のみ。コントロールタワーは、南アではなく東京サイドにあった。
スポーツニュース然り、ワイドショー然り。新聞・雑誌もまた然り。「バラ色」は、現地発の色ではない。東京で日本人向けに加工された色だと僕は信じて疑わない。
「ネズミ色」が敬遠される理由でもある。バラ色のお祭りにしておくほうが、いろいろな意味で得だからだ。