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F1界のプロフェッショナリズムとは?
ヒュルケンベルグと可夢偉の有終。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2013/01/10 10:30
ブラジルGPで、攻めに攻め続けたヒュルケンベルグがクラッシュした瞬間。ドライバーの安全性が高まったとはいえ、これだけアグレッシブな走りをするのは間違いなく“命懸け”のレベル。
「プロだったら、最後の1秒まで、全力でチームのために仕事する」
これはザウバーでの最後のレースとなった昨年の最終戦に臨んだときの小林可夢偉の心境である。
タイトル決定戦の舞台となった2012年の最終戦ブラジルGP。当然ながら、注目を集めていたのはセバスチャン・ベッテルとフェルナンド・アロンソの2人だった。しかし、その戦いの裏で、可夢偉と同様にプロとしてチームのために最後まで戦う男たちがいたことも忘れてはならない。
それは、ニコ・ヒュルケンベルグである。
2012年シーズン中盤、ヒュルケンベルグが所属するフォース・インディアはコンストラクターズ選手権で8位と精彩を欠いていた。それが夏休み以降、マシンを改良し、第12戦ベルギーGPから第19戦アメリカGPまで8戦連続入賞を果たし、ウイリアムズを逆転して7位に浮上していた。残り1戦、選手権6位のザウバーとのポイント差は25点。それはレースの優勝者が手にする点数と同じ。'08年から5シーズン戦って、未勝利のフォース・インディアにとって、それは絶望的とも思えるほど大きな数字だった。
移籍決定後も、最後まで命懸けの走りを見せたヒュルケンベルグ。
その戦いに、挑もうとしていたのがヒュルケンベルグである。しかし、ヒュルケンベルグはこの時点で、すでに2013年にザウバーへ移籍することを発表していた。それでも、6番手からスタートしたヒュルケンベルグは2周目に4番手に上がると、5周目にはスタート直後に先行されたタイトル争いをしていたフェルナンド・アロンソをかわして3番手に浮上。今シーズン最高の走りを披露するのである。
快走はそれだけにとどまらなかった。
3番手に上がったヒュルケンベルグは、前を走る2台のマクラーレンと同等のペースでラップを刻んでいくのである。10周目にハミルトンがピットインして労せずして2番手に上がってからも、そのペースは衰えず、18周目にはコース上でトップを走るバトンをオーバーテイク。ついに、実力で先頭に立つのだった。