スポーツで学ぶMBA講座BACK NUMBER
人気のスポーツ飲料、何がどう違う?
顧客が自ら買いたくなる仕組みとは。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byNaoki Ogura(JMPA)/Takuya Sugiyama
posted2012/11/20 10:30
2012年のスポーツシーンを象徴する澤穂希選手と長友佑都選手。スポーツファンだけでなく、マーケティング活動を繰り広げる企業からも熱い視線が注がれている。
商品を売り込まずとも、顧客自らが買ってくれる仕組みづくり。
ここまでみてきたように、上述した商品は、プロモーションやパッケージなどを通じてそれぞれが独自の価値・イメージを作ることに成功し、顧客を取り込んでいる。まるで、スポーツ飲料という同一の市場、同じ領域で戦っているというよりは、それぞれがサブ市場を作りだしているかのようである。それぞれの商品の「価値・イメージ」が顧客の中に浸透しているからこそ、顧客自らが自身のニーズに合うものを臨機応変に選んで購入しているといえるのだろう。
これこそが、マーケティングの効果である。マーケティングの定義は様々であるが、ピーター・ドラッカーは「セリングをなくすことである」と言っている。つまり、こちらからの売り込みではなく、顧客が自らその商品に「価値」を感じ、選び、そして購買してくれるような仕組みをつくることである。
マーケティングを考える際には、プロモーションの議論だけではなく、その製品・サービスにどのような価値を載せていきたいか、ということを考えることが重要である。これを「ポジショニング」を策定するという。そしてそのポジショニングを考える際には、自社がターゲットとする顧客のニーズを意識して(ターゲティング)、その顧客にとって意味のある価値を策定する。そして策定した「その商品・サービスを通して届けたい価値」を、4P(Product, Price, Place, Promotion)などで実際に実現していくのである。
余談であるが、アクエリアスは、商品ラインナップを拡大している。スポーツ選手ではなく、有名女優・俳優をCMに起用している「アクエリアス ビタミンガード」「アクエリアス ゼロ」などである。これらは「アクエリアス」とはまた違った価値を創造している。ビタミンガードは「あたしよみがえる」などのキャッチコピーを使って、リフレッシュすることを、そしてアクエリアス ゼロは「広がる、ちょっといい自分」というキャッチコピーで、ダイエットなどをコツコツ努力し、自己実現に向かっていくことを応援するイメージを作りだしている。それぞれ、「アクエリアス」とは違うターゲット層を狙って、そのために商品パッケージデザインを変え(製品)、プロモーションも変化させていることが分かるであろう。
顧客はスポーツ飲料の栄養成分を吟味していない。
ここで注目したいのは、多くの人は、それぞれの飲料の栄養成分をその都度詳細に比較し、購入判断をしているわけではないのである。もちろんそれぞれの商品には成分の特長がある。しかし、今回のスポーツ飲料のように単価も安く、店頭において購入までの時間が比較的短い商品においては特に、その商品から伝わる価値、イメージを頼りに、その時のニーズにマッチする商品を購入しているといえるのではなかろうか。
ここにマーケティングの醍醐味がある。
つまり、製品やサービスの機能的な特長を伝えるだけではなく、その製品・サービスを通してどういった価値を顧客の中に意味づけていくのかという点が勝負になるのである。そのためには、商品の「優位性」と「有意性」を掛け合わすことが大事になるのである。(参考:日経ビジネス 2012年10月29日)
さらに言うと、この価値(意味)の創造の仕方が、差別化にもつながるといえるのである。
「顧客にとっての意味」とは、4Pだけではなく、社員の行動や使う言葉などを通しても顧客に伝わっていくものである。したがって4Pという仕組みだけにとどまらず、どのようなメッセージを会社として、事業部として伝えているのかを今一度見つめ直してほしい。