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新米監督の「栗さん」が
勝てた理由を考えてみる。
~栗山英樹・著『覚悟』を読む~
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph bySports Graphic Number
posted2012/10/25 06:01
『覚悟 理論派新人監督は、なぜ理論を捨てたのか』 栗山英樹著 KKベストセラーズ 1300円+税
「素人監督」だからこそできた、大胆な決断と起用法。
このファイターズ独特の哲学は、栗山の人生にも重なる。引退から22年、彼はメディアに生きてきた。日本人は肩書きで人を評価する。栗山にとっては厳しい戦いだったに違いない。『覚悟』には、そのあたりの苦心も描かれている。
「僕のように実績もない若僧が偉そうに解説しても、説得力に乏しい。そのなかで心掛けていたのは、『人の話を聞く』ということ。答えを出すことはできないけど、聞くことはできる。人が話しやすい環境、また自分が聞く環境をどうつくるか、そんなことばかり考えていた」
実績がない栗山は、逆転の発想に活路を見出すしかなかった。元名選手のように自分の考えを押し出すのではなく、自分の色を消して他者を引き立てる。この姿勢は、やがて監督としての武器になった。栗山は斎藤佑樹を開幕投手に抜擢し、不振でも中田翔を4番から外さなかった。新生球団の「素人監督」でなければできない、大胆な決断。伝統と格を重んじる巨人軍や阪神タイガースでは無理だろう。
岩舘、吉川、増井……選手の活躍に涙ぐむ指揮官の姿が新名物に。
評論家でも監督でも、栗山の振る舞いは基本的に変わらない。選手に自信を持たせ、その気にさせる。すべてはその一点に集約されている。選手の活躍を見てベンチで監督が涙ぐむ光景は、ファイターズの新たな名物となった。岩舘学で泣き、吉川光夫で泣き、増井浩俊で泣いた。
経験のない無私の監督が泣くたびにファイターズは燃え上がり、パ・リーグの頂点に駆け上がる。俺流でも闘将でもない、「栗さん!」だから勝ったのだ。