南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
スペイン代表はパスを回せるのか?
南アW杯の戦術的傾向を徹底検証。
text by
西部謙司Kenji Nishibe
photograph byGetty Images
posted2010/06/11 10:30
W杯大会前のスペイン代表は、6月3日に行われた韓国との親善試合を1‐0で飾っている。セスク・ファブレガスとイニエスタの連携が韓国DFラインを引き裂いた
スペインの戦術を封じるヒントはハンドボールにアリ!?
このスペインの高等戦術は2年前のユーロ優勝で開花したわけだが、アイデアは80年代の終わり頃からあるにはあった。
当時バルセロナの監督だったヨハン・クライフは「人はボールより速く走れない」と宣言し、現代のスペイン・サッカーの元となるスタイルを披露している。バルセロナのプレースタイルはスペインと同じといっていい。
欧州チャンピオンズリーグでは、バルセロナをどう封じるかが、この2シーズンでいわば大会の戦術的テーマになっていた。最も優れた回答を出したのは、今季優勝したインテルだった。
ジョゼ・モウリーニョ監督に率いられたインテルは、自陣深くに守備ブロックを構えてスペースを思い切り限定し、バルセロナのパスワークによって生じる隙間と連係の時差を最小限にした。そして、鋭いカウンターアタックで3ゴールを叩き出した。
インテルの戦い方は、サッカーの戦術が高度化していく中でますますハンドボールのそれに近づいていることを示唆している。
ハンドボールには“中盤”が存在しない。足よりも器用な手を使って自在にパスを繰り出せるハンドボールにおいては、パスワークを阻止するのはほぼ不可能で、自陣に引いて守備を固めるしか方法がない。インテルはバルセロナに対して、中盤でパスワークを阻止するのを諦め、中盤を放棄する形で構えていた。サッカーが技術的に進歩すれば、戦術的にハンドボールやバスケットボールに近づくのは自然な流れといえるのである。
南アW杯の見所のひとつはライバル国の“スペイン対抗策”だ!
今大会、やはりスペインに対してはインテルのような対処をするチームが多くなると予想できる。
欧州CLではバルセロナと同じスタイルで真っ向勝負を挑んだアーセナルが玉砕している。
南アW杯で、スペインを相手にまともに正面から攻め合いそうなのは……グループリーグで当たるチリのほかにも、オランダ、アルゼンチンといることにはいる。しかし力関係で劣勢だと分かれば、その時点でどうしても押し込まれていくはず。その結果、スペインvs.インテル型カウンターという図式になるはずだ。
とは言え、ここ数年でサッカー界を席巻したバルセロナとスペインの戦術は世界中に知れ渡っている。南アフリカW杯でスペイン包囲網が敷かれるのも間違いない。ただ、バスケットボールでもやがてはオールコートのマンマークが主流になったように、ゾーンを思い切り下げて守るだけが解決策ともいえないはず。このW杯でどんなスペイン対抗策が出てくるのか……今から楽しみである。