南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
スペイン代表はパスを回せるのか?
南アW杯の戦術的傾向を徹底検証。
text by
西部謙司Kenji Nishibe
photograph byGetty Images
posted2010/06/11 10:30
W杯大会前のスペイン代表は、6月3日に行われた韓国との親善試合を1‐0で飾っている。セスク・ファブレガスとイニエスタの連携が韓国DFラインを引き裂いた
サッカーの戦術は毎年進化しているが、その大きな潮流をまとめて見られるのがW杯の大きな魅力である。
そういう意味で、あえて戦術だけに注目してみると、南アW杯の焦点はほぼ決まっていると言っていい。スペイン、またはスペイン的なサッカーをどう封じるかということだ。
守備に関しては、ほとんどの代表チームが4バックとゾーンディフェンスを採用しているようだ。3バックでリベロを置いているのはギリシャ、北朝鮮ぐらいか。3バックが伝統だった旧ユーゴスラビア勢(セルビア、スロベニア)でさえ、今ではゾーンの4バックに移行しているくらいなのだから。90年代からこの戦術的傾向はあったものの、ほぼすべてのチームが同じ守備戦術に統一されたのは、W杯史上でも初めてかもしれない。
守備ブロックの隙間を突いて素早くパスをつなぐスペイン。
ゾーンの守り方は、当然だが、とことん規則的なところにその特徴がある。
隣の選手同士で連係しつつ、フィールドプレーヤー全体がさらに大きく連動してポジションをずらしていく。このゾーンの守備ブロックをピッチ上のどの位置に置くかは状況によって、もしくは相手との力関係によって変わってくるのだが、集団での規則性というところが共通項となる。
この守備ブロックをがっちり固められると、なかなか点をとることはできない。だから、どの国もこの守り方になっていったわけだ。
そこに現れたのが、長らく国際的なビッグタイトルとは無縁だったスペインである。
抜群のパスワークを誇るスペインは、守備ブロックの隙間に丁寧かつ素早くパスをつないでいく。パスコースやコントロール、動きのタイミングが少しでもズレると成立しないという離れ業なのだが、スペインにはそれを成立させる技術があり、それを実現できる選手がいたということだ。
精密なパスワークが打ち砕いたゾーンディフェンスの優位性。
隙間にボールをつながれると、ゾーンディフェンスはボール方向へ収縮する。しかし、選手はどうしても全員が同じタイミングでは動けない。ボールに近い順番に動くので、ボールから離れるに従って少しずつ動きが遅れる。アコーディオンの“じゃばら”の部分のように、動きは後追いになってくる。つまり、守備ブロックの一部が収縮を始めると、その周辺は必ず一時的に新たな隙間が生じてしまうのだ。
スペインはその収縮の時間差をつき、次々に新たな隙間にパスを通し、最終的に守備ブロックのバランスを大きく崩すことに成功したのである。
スペインの攻撃は、ゾーンディフェンス全盛の時代に投じられた一石である。
動きが規則的なゾーンディフェンスは、スペインの精密なパスワークの前には規則的に崩れてしまうという大問題を抱えることになったわけだ。