スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
クラブは赤字、選手はフェラーリ……。
「余命5年」のリーガに未来はあるか?
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2012/10/06 08:01
メッシ、C・ロナウドという世界最高の選手二人を抱えるリーガ・エスパニョーラの足元が揺らいでいる。
クラブの資金力不足が招いた才能豊かな選手の流出。
今夏ハビ・マルティネス(アスレティック・ビルバオ→バイエルン・ミュンヘン)、サンティ・カソルラ(マラガ→アーセナル)、ボルハ・バレロ(ビジャレアル→フィオレンティーナ)、ミチュ(ラージョ・バジェカーノ→スウォンジー)ら若く才能豊かなスペイン人選手が多数他国リーグへと移籍したのは、バルセロナとレアル・マドリー以外の国内クラブが高騰する選手の年俸に対応できず、他国のクラブと資金力で競うことができなくなった証拠である。
またスペインでは、何年も前からバルセロナとレアル・マドリーが総収入の50%近くを独占しているテレビ放映権料の不平等な分配方法が問題視されてきた。教授はクラブ間の経済格差を広げるこの分配方法に加え、リーグのテレビ放映権の売り方自体にも問題があると指摘している。'10-'11シーズンにリーグ全体で得た放映権料の総額は約64億7000万ユーロ。これはプレミアリーグの101億3000万、セリエAの91億8000万と比べて随分と少ない額だ。教授は言う。
「スペインフットボールの未来はテレビ放映権の売り方にかかっている。現在リーガは年間6億~6億4000万ユーロの放映権収入を得ているが、国内に加えヨーロッパ、北米、ラテンアメリカ、アジアの国々にうまく売り込めば9億ユーロは稼げるはずだ」
リーガが衰退していけば、バルサやレアルも無事では済まない。
中小クラブが支出の合理化と緊縮経営に努める傍ら、テレビ放映権の売り方と収入の分配方法の改善という、何年も前から訴えられてきた課題は手つかずのままとなっている。その裏には、既得権益の確保を優先するレアル・マドリーとバルセロナの存在があると言われている。
だがこのままリーガ・エスパニョーラが衰退していけば、スペインフットボール自体が死に絶えてしまう。そうなればバルセロナもレアル・マドリーも無事で済むわけがない。
スペイン紙『アス』で教授の発表を特集したサンティ・ヒメネス記者は、記事の中でこうつづっていた。
「ガイの話を聴いた後、フットボール界の現状はブレーキが壊れた列車のようなものだという印象を抱いた。まだ分からないのは、先に待つのが軌道を修正する転轍(てんてつ)手なのか、断崖絶壁なのかということだ」
このままリーガを食いつぶすのか、共存共栄の道へと軌道を修正するのか。いずれにせよ、もう残された時間は僅かしかない。