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ダルビッシュがついにメジャー仕様に!?
野茂を超えた、後半戦の活躍の意味。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2012/09/30 08:01
首の張りを訴え、25日の登板を緊急回避したダルビッシュ有。後半戦も再び好調を維持していただけに、早い回復が望まれる。
野茂を超えた、1年目のシーズン後半の大活躍。
下の表を見てほしい。ダルビッシュと野茂英雄投手、松坂大輔投手のメジャー1年目の月別成績である。
試合数 | 勝利 | 敗戦 | 防御率 | 投球 回数 |
被打率 | 奪三振数 | 与四球数 | ||
ダルビッシュ有 (2012年) |
4月 | 5 | 4 | 0 | 2.18 | 33 | .238 | 33 | 17 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
5月 | 5 | 3 | 2 | 4.50 | 28 | .231 | 33 | 18 | |
6月 | 5 | 3 | 2 | 4.15 | 34.2 | .217 | 40 | 15 | |
7月 | 4 | 1 | 3 | 5.74 | 26.2 | .238 | 32 | 14 | |
8月 | 5 | 2 | 2 | 5.29 | 32.1 | .244 | 44 | 18 | |
9/10月 | 4 | 3 | 0 | 1.80 | 30 | .112 | 32 | 6 | |
松坂大輔 (2007年) |
4月 | 5 | 3 | 2 | 4.36 | 33 | .242 | 38 | 10 |
5月 | 6 | 4 | 1 | 5.22 | 39.2 | .280 | 30 | 11 | |
6月 | 5 | 2 | 2 | 1.59 | 34 | .179 | 42 | 15 | |
7月 | 6 | 3 | 3 | 3.62 | 37.1 | .261 | 32 | 14 | |
8月 | 5 | 1 | 3 | 4.45 | 32.1 | .224 | 32 | 16 | |
9/10月 | 5 | 2 | 1 | 7.62 | 28.1 | .281 | 27 | 14 | |
野茂英雄 (1995年) |
4月 | (ロックアウトのため試合無し) | |||||||
5月 | 6 | 0 | 1 | 3.82 | 33 | .197 | 49 | 25 | |
6月 | 6 | 6 | 0 | 0.89 | 50.1 | .143 | 60 | 16 | |
7月 | 5 | 2 | 1 | 2.00 | 36 | .143 | 41 | 9 | |
8月 | 6 | 2 | 3 | 3.73 | 41 | .216 | 55 | 15 | |
9/10月 | 5 | 3 | 1 | 2.90 | 31 | .227 | 31 | 13 |
表には一応勝敗も加えているが、在籍するチーム事情に左右される部分も大きく、投球の安定感を理解する上で重要な指標にはならない。やはり防御率、投球イニング数、被打率、奪三振数、与四球数をチェックするべきだろう。
その観点から表を読み取ると、3投手ともに共通しているのが、シーズン前半にピークを迎えている月があるということだ。
野茂と松坂は6月、ダルビッシュは4月だ(ただし野茂の場合はロックアウトの関係で1995年の開幕は5月だったため、実際は平年の5月に相当するだろう)。
これは、シーズン前半戦は基本的に対戦するチームが初顔合わせになるということが強く影響している。初顔合わせの場合、打者よりも投手が有利という定説がある通り、実際に投手が投げる球を見極めるまで打者が対応するのは難しい。そのためメジャーの環境に慣れ自分の投球ができるようになった時点で、ずば抜けた成績を残せたものと考えられる。
しかし、実際に各チームが投球をチェックし、ある程度のデータを収集し終えたシーズン後半戦に入り、更なるピークを迎えているのはダルビッシュしかいない。
もちろん、メジャー1年目の野茂がトルネード旋風を巻き起こし、活躍をしたのは事実だが、後半戦は、ダルビッシュのようにシーズン前半戦を凌駕するような投球を披露できていない。これこそがダルビッシュが前半戦とは違うメジャー仕様の投手へと“覚醒”した証でもあるだろう。
ローテーションを守り続ける、メジャー屈指のスタミナ。
さらに、後半戦の高いパフォーマンスは、ダルビッシュの秘められた潜在能力の高さをも証明している。メジャー挑戦前に各方面から不安視する声も上がっていたスタミナ面だ。
言うまでもなくメジャーの球場はほとんどが屋外。夏場を戦い終えた9月に入れば、選手は例外なく多少なりとも疲労を蓄積している。
特にレンジャーズの場合、本拠地の夏の酷暑は凄惨極まる上、ア・リーグ西地区4チームで唯一2時間の時差があるため(残り3チームはすべて西海岸都市)、長距離移動を余儀なくされるなど、体調管理面でマイナス要因ばかりだ。
にも拘わらず、8月28日以降ローテーションをしっかり守り、5試合連続で7イニング以上を投げ続けている(8月17日のブルージェイズ戦を加えると6試合連続)。投球内容もさることながら、十分な体力がなければ長いイニングを投げ続けることは不可能だ。もうすでにダルビッシュの体力はメジャーでもトップクラスなのではあるまいか。
今シーズンは故障者が続出し先発ローテーションが目まぐるしく入れ替わる中、登板試合数、投球イニング数でマット・ハリソン投手に次いでチーム2位にランクしているのは賞賛に値する。そして現在の投球内容は間違いなくハリソンさえも上回る安定感を見せている。米国メディアが、プレーオフではダルビッシュがチームの中心になるだろうと予測しているのも頷ける話だ。