スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
新興勢力の躍進とコイン・トス。
~MLBプレーオフを展望する~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byYukihito Taguchi
posted2012/09/25 10:31
智将デイビー・ジョンソン監督(写真中央)のもと、移転後初のプレーオフ進出を果たしたナショナルズ。
9月がそろそろ終わる。
大リーグのレギュラーシーズンもあとわずかとなった。が、息つく暇もなく、甘美で残酷な10月がはじまる。
とくに今季は、ポストシーズンに歴史的なイヴェントが控えている。
10月5日に予定されているワンゲーム・プレーオフだ。今季から2枚に増えたワイルド・カードが、怨みっこなしの一本勝負でぶつかり合う。まるでコイン・トスだ。勝ったチームだけが、ディヴィジョン・シリーズに進出できる。その先は例年どおり、リーグ・チャンピオンシップとワールドシリーズの激戦がつづく。
だが9月22日現在、2枚のワイルド・カードは、両リーグともまだ決まっていない。
プレーオフ出場を決めたのも2球団だけだ。
ナ・リーグ中地区首位のレッズと、ナ・リーグ東地区首位のナショナルズ。レッズは開幕前から評価が高かったが、ナショナルズは穴馬扱いだった。なにしろ、前身のモントリオール・エクスポズがプレーオフに進出したのは、1981年のことだ。さらにいうなら、ワシントンDCに本拠地を置く球団がプレーオフに進出したのは、1933年のセネタースにまでさかのぼらなければならない。
アドヴァンテージを巡って、ナ・リーグの激闘は続く。
今季のナショナルズは、リーグ随一の先発投手陣が機能した。エースのストラスバーグこそ、肘の手術直後とあって、9月中旬に操業停止を言い渡されてしまったものの、ジオ・ゴンザレス、ジョーダン・ジマーマン、ロス・ディトワイラー、エドウィン・ジャクソンとそろった先発4本柱に死角はない。プレーオフ進出を決めた試合でも、ディトワイラーが6回を1失点に抑え、ドジャースを相手に危なげない勝利を収めている。進出を決めた時点での勝率は、6割1分1厘。
他方のレッズは、ナショナルズよりも何時間か早く、プレーオフ進出を決めた。こちらの勝率は、6割7厘。負けの数がひとつ多いだけで、勝利数はぴたりと肩を並べている。
こまかいことをいうようだが、この星ひとつの差が最後になって利いてくる。ナ・リーグ最高勝率のチームは(オールスターでもナ・リーグが勝っているので)、ポストシーズンの期間中、「ホームフィールド・アドヴァンテージ」を満喫することができる。DSでもLCSでもワールドシリーズでも、本拠地での戦いが多ければ展開は相当に有利だ。このニンジンが眼の前にぶらさげられているかぎり、ナショナルズもレッズも、残り試合に手を抜くことは考えられない。