MLB東奔西走BACK NUMBER
なぜ米国内が無関心でも開催する!?
MLBのスカウト戦略としてのWBC。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byKyodo News
posted2012/09/18 10:31
9月4日、甲子園での試合前に行われた記者会見で、第3回WBCへの参加を表明する日本プロ野球選手会の新井貴浩会長。会見の最後には加藤良三コミッショナーへの批判を展開、選手会としても苦渋の決断であることを窺わせた。右は松原徹・選手会事務局長。
他国の選手に、米国内のメジャー球場を使わせる意味。
繰り返すが、WBCIはこれまで一度たりとも3月の開催時期を変更する考えを示したことはない。
メジャー現役選手が多く参加し、シーズン開幕を直前に控えた状況を考えれば、自ずと決勝ラウンドの開催場所も米国内に限られる。つまり勝ち上がってきた選手たちは常に米国内のメジャー球場、施設を使用することになる。
1992年にオリオールズがボールパーク型の新球場を建設して以来20年。すでにメジャーではドーム球場の2チーム以外はすべて天然芝球場を使用し、最新設備のクラブハウス、トレーナー室、トレーニング施設が揃い、まさに世界中の野球選手にとって羨望のインフラを有しているのだ。
球場などインフラ面での違いがメジャーへの憧れを助長する。
その一方で、世界第2のプロリーグであるはずの日本ではいまだにドーム球場が主流で、ほとんどの球場が人工芝を使用している。
人工芝は選手のパフォーマンスや故障に大きな影響をもたらすことが叫ばれて久しいのに、状況に大きな変化はない。これまで現役またはOBの日本人メジャー選手たちと何度も話をしてきているが、残念ながら日本球界のインフラに関する認識は、MLBよりも10年以上遅れているというのが共通の見解だ。
そんな格差が存在する中で、MLB以外の選手たちがWBCでMLBの球場を使用すれば、思う存分野球を楽しめる環境に、MLBへの憧れを更に強めるのは仕方のないことだ。
WBCは「野球の国際化」ではなく、「MLBの世界支配」の象徴。
バスケットボールのNBAマーベリックスを所有し、辣腕オーナーとして知られるマーク・キューバン氏が、ダラスに新アリーナを建設し、マーベリックスのロッカールームだけでなく、相手チームのロッカールームも充実した設備を揃えた理由を説明しているのだが、それがまさにMLBの戦略に相通じるものがある。
「たとえ相手選手だとしてもアリーナを使ってもらい快適に過ごしてもらえば、自分のチームに対する印象が悪くはならないだろう。そんな彼らがいつか移籍を考えたときに、喜んで自分のチームを選んでくれたらこれほど嬉しいことはない」
このように、米国の一般ファンの関心を集められなくても、MLBにとってはWBCを開催することに大きな意義があるのだ。
日本ではWBCを論じる際にしばしば「野球の国際化」という表現を使うが、単独でこれだけの権力を握っているMLBからすれば、やはり「MLBの世界支配」という表現がここではより近いものと言えよう。
果たしてNPBが主張するように、内側からWBCを変えていくことができるのか。第3回大会の選手および監督選考、さらには戦いぶりを含め、今後のNPBの動向を注視していきたい。