MLB東奔西走BACK NUMBER
なぜ米国内が無関心でも開催する!?
MLBのスカウト戦略としてのWBC。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byKyodo News
posted2012/09/18 10:31
9月4日、甲子園での試合前に行われた記者会見で、第3回WBCへの参加を表明する日本プロ野球選手会の新井貴浩会長。会見の最後には加藤良三コミッショナーへの批判を展開、選手会としても苦渋の決断であることを窺わせた。右は松原徹・選手会事務局長。
過去2回の大会では、日本からも15選手がメジャーへ。
世界各地から優秀かつ有望な選手が参加し、しかもメジャーの選手たちと対戦してくれるのだ。各チームのスカウトにとって、注目している選手たちの能力をチェックできるこれほどの機会はないだろう。しかも、MLBのスカウト網は中南米、アジア諸国には及んでいるが、競技人口の少ないヨーロッパ、アフリカ諸国はまだ十分とはいえない。そういった地域の有望選手たちもWBCでチェックできるわけだ。
実際、過去2回の大会を通じて、日本代表チームに参加した選手のうち15選手がメジャー入りしている。さらに来シーズンは中島裕之、藤川球児両選手のメジャー入りも確実視されている。
また、国交のないキューバ代表チームからも5選手がメジャー入りしている。特に第2回大会で若手有望選手として注目されたアロルディス・チャップマン、レオニス・マルティン、ヨエニス・セスペデス各選手はすべて祖国を捨てメジャー入りした。
松坂大輔、ダルビッシュ有両投手のメジャー入り1年目の騒ぎぶりを見ればわかるように、新たに獲得する国外選手たちのプロモーションの場としても、WBCは見事に機能しているのだ。
MLBも、アップル同様、アメリカのグローバル企業に他ならない。
つい先日のことだが、サンフランシスコの地元紙に、MLBのドミニカにおけるスカウティング活動を取り上げる記事が掲載されていた。そこで関係者の話として以下のようなコメントを紹介している。
「MLBもアップル同様に、グローバリゼーションを有効に活用している。安い労働力を求めて国外に巨額の投資を行なうという点ではMLBもまさにアメリカの企業に変わりはない」
すでに巨大産業として成熟してしまったMLBでは、極端なまでの年俸格差が生じてしまっている。日本やキューバから有望選手と大型契約を結んだとしても、まだメジャーの高額選手たちの年俸から比べれば安価で済んでいる状況なのだ。
選手スカウトのショーケースという側面ならサッカーのワールドカップも同じだろう。しかし、WBCの場合はMLBにとって更なるメリットが存在している。それこそがWBCI単独開催の旨味でもあるのだ。