プロ野球亭日乗BACK NUMBER
黒田とダル、内海と澤村の違いは?
エースの条件は制球力の有無にあり。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/09/03 10:30
内海哲也(左)の今季ここまで(8月31日現在)の成績は23試合に登板して12勝6敗、防御率1.79。澤村拓一(右)は23試合登板で9勝9敗の防御率2.66。
安定した制球力が、内海をエースへと飛躍させた。
実は内海も澤村と同じような道を歩いてきた。東京ガスから自由獲得枠で巨人に入団した当時は、サウスポーから放たれる威力抜群のストレートが首脳陣を虜にした。
ただ、その真っすぐに頼ったピッチングは、なかなか結果に結びつかず、“万年エース候補”と陰口を言われるシーズンが続いた。
「何とかエースに育ってほしいと思って、内海にはずっと真っすぐを磨けと言い続けてきた」
そう振り返るのは原監督だ。
「でも、去年はそれを止めた。真っすぐの威力ではなく、変化球の制球を含めてトータルでピッチングを組み立てられる投手になった。今はもう以前のような真っすぐは必要なくなった。それが内海という投手の完成型だったということでしょう」
一昨年のオフからPNFトレーニングを取り入れたことで、体の使い方のバランスが良くなり、制球力が大きくアップした。力だけではなく、制球を含めてボールを扱う能力が上がることで、内海はエースへの道を切り開いたのだ。
剛速球を投げるだけでは真のエースにはほど遠い。
一方、澤村といえばウエートトレーニングが思い浮かぶ。大学時代から重いベンチプレスを上げることで、一流への階段を駆け上ってきたし、本人にもその自覚がある。
ただ、そこでもう一つ、上のステージを目指すためには、もしかしたら違う工夫も必要なのかもしれない。
いくら筋肉をつけても、その筋肉をバランスよく、思うように動かせなければピッチングというパフォーマンスにはなかなか結びつきにくい。
内海の成功のきっかけとなったPNFも一つの方法かもしれないし、また違ったトレーニング方法があるかもしれない。ただ、いずれにしても、大きな筋肉をつけるだけではなかなかピッチングというパフォーマンスのすべては向上しない。その筋肉を思い通りに動かせるようになってこそ、制球力も上がり完投能力や先発投手としてのパフォーマンスの向上にもつながる。
それが今の澤村には必要なのだろう。
凄い球を投げるだけではエースにはなれない。いかに効率よく相手打者を抑え込む技術を身につけるか。ヤンキースのエースとなった黒田のピッチングが、まさにそれを教えてくれている。