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夏の甲子園、投打の傾向を徹底分析。
1番打者のスタイルはなぜ変わった!?
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/08/30 10:31
3回戦の神村学園(鹿児島)戦。試合開始のサイレンが鳴り響く中、140kmのストレートを叩いて先頭打者ホームランを放った光星学院の天久翔斗。試合前、「プレーボール本塁打を打ちたい。積極的に振る」と話していた。
イチロー以来、変わりつつある1番打者のスタイル。
少し前まで高校野球の1番打者は、ファーストストライクからガンガン打って、というタイプは少なかった。なるべく多くの球を投げさせることにより、自身はじっくり球筋を見極める、2番以降の打者には球筋とともに配球の傾向を知らしめる、という役割があった。しかし、今大会で明らかなように、1番打者でも初球からガンガン打って行く積極的な考え方が浸透し始めている。
たとえばプロ野球を見れば、昨年の首位打者、内川聖一(ソフトバンク)、長野久義(巨人)は初球からガンガン打ちにいって結果を残している。ファーストストライクを打った昨年の打率は次の通りである。
内川聖一 127打数50安打=.394
長野久義 144打数57安打=.396
こういう傾向が見え出したのはイチロー(ヤンキース)がブレイクした'94年からで、その後高橋由伸(巨人)が続き、好球必打のバッティングスタイルに注目が集まり出した。そして高校野球の世界でも遅まきながら、監督の若返りとともに1番打者でも3、4番と同様に、甘いボールがきたら躊躇なく打って行くバッティングが浸透しつつある。そういうことが確認できた大会だった。
筆者が選ぶベストナインから見えた傾向。
大会が終わったあと、筆者はブログに「甲子園大会のベストナイン」を発表した。次のような顔ぶれである(投手は5人選出した)。
[投手] 藤浪晋太郎 (大阪桐蔭3年・右投右打・197/85)
松井裕樹 (桐光学園2年・左投左打・174/74)
菅原秀 (福井工大福井3年・右投左打・182/75)
黄本創星 (木更津総合3年・右投右打・182/79)
竹石智弥 (新潟明訓3年・右投左打・182/75)
[捕手] 田村龍弘 (光星学院3年・右投右打・173/77)
[一塁手] 田端良基 (大阪桐蔭3年・右投右打・175/83)
[二塁手] 鈴木拓夢 (桐光学園3年・右投左打・181/75)
[三塁手] 笠松悠哉 (大阪桐蔭2年・右投右打・180/73)
[遊撃手] 北條史也 (光星学院3年・右投右打・177/75)
[外野手] 上林誠知 (仙台育英2年・右投左打・180/70)
佐藤廉 (盛岡大付3年・右投右打・183/83)
笹川晃平 (浦和学院3年・右投右打・181/78)
意図したわけではないが野手の8人は、大阪桐蔭の田端、笠松以外はすべて東日本の選手になった。大阪桐蔭以外で強打が強く印象に残っているのは光星学院、浦和学院、東海大甲府、作新学院と、やはり東日本勢が多い。
若い監督が最新の技術理論に躊躇なく手を伸ばせるのに対して、実績のある監督はどうしても自分の体験を最重要視し、日々の練習試合も気心が知れた同士で行うことが多いので、技術がマンネリ化する。そういうことがチーム打率10傑や私のベストナインの顔ぶれに反映されているのかなと思う。