野球善哉BACK NUMBER
佐久長聖と松阪に、名将あり――。
甲子園初戦で散った“隠れた名監督”。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/08/31 10:30
佐久長聖の藤原弘介監督(右)はまだ38歳。松阪・松葉健司監督(左)は44歳。これからどのように高校野球界を変えていくのか……楽しみな存在。
この夏、以前とは異なったユニフォームを身に纏い、甲子園で指揮を執る2人の監督の姿があった。
佐久長聖(長野)の藤原弘介監督と、松阪(三重)の松葉健司監督である。
藤原監督は前任のPL学園時代に監督として春・夏3度の甲子園出場。'06年春にはエース・前田健太(広島)を擁してベスト4に進出した。'08年夏を最後に監督職を降り、コーチや副部長としてチームを支えてきたが、今年4月、佐久長聖に移ってきた。
「PL学園で色々経験させてもらった」と藤原が話しているように、選手・コーチ・監督として所属したPL野球が彼の指導の根底にはある。
PL学園で体得した藤原の野球とは、まさに「考える野球」といっていい。野球の奥深さを追求し、常に先の先を考えてプレーする……指導する学校が変わっても、その心構えは今でも変わらない。
「野球とはただ打って、投げて、走るだけじゃない」
藤原が以前にこう話していた。
「生徒たちによく言うのは、ただ打って、ただ投げて、ただ走るだけじゃないよ、と。野球をもっと考えてやれば、今の能力でももっとうまく回る、ということです。例えば、走塁の話になりますけど、レフト前ヒットを1本打ったとしましょう。普通なら、打者走者は一塁で止まりますよね。でも、それが『絶対なのか』ということなんです。アウトになってもいいからと二塁まで行って全部アウトになるかといったらそれは分からない。
外野手がハンブルするかもしれないし、送球がそれることもあります。外野手が右利きなのか、左利きなのかでも結果は違ってきます。レフト線際に打って左翼手が左利きだったら、投げるまでに回転を入れないといけないから、コンマ数秒時間がかかる。そうなると、二塁を狙えるんです。相手の外野手がシートノックですごい返球をしていると、肩が強いと思いがちですけど、実はステップを多く踏んでいたりします。アバウトな眼で見るのではなく、ストップウオッチで計れば、隙が見えてくる」
走塁だけでなく、ピッチング、バッティング、あるいはキャッチャーのリードにおいても、藤原の考える野球はなかなかに奥が深い。