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“女子マラソン王国”日本、崩壊!
求められる強化策の抜本的改革。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byShinji Oyama/JMPA
posted2012/08/06 16:50
レース後のコメントは以下の通り。「故障でちゃんと練習できていなかった」(重友)、「後半に順位を上げるプランだったが……」(尾崎)、「スピードアップに対応できなかった」(木崎)。
では、どうすれば女子マラソンは巻き返しを図れるのか?
今回のレースを見て、男子マラソンのアトランタ、シドニーの頃の状態を思い出した。
1992年のバルセロナ・オリンピックで森下広一が銀メダルを取った後から、世界のマラソンの高速化が進み、日本は一気に取り残されてしまった。同じような現象が、およそ20年遅れで女子マラソンの世界でも起きている。
むしろ、現在は男子の方がどん底を知ったおかげで、藤原新のような独立系のランナーや代表には漏れてしまったが川内優輝のようなランナーが登場し、多様性が広がっている。まだ世界と対抗する力は備わってはいないが、土台は出来つつある。
女子もいち早く巻き返しを図るべきだ。
ヒントは今回のロンドンのレースにある。銅メダルを獲得したタチアナ・ペトロワ(ロシア)はいったん、集団から離されたものの、巻き返して銅メダルを獲得した。ケニア、エチオピアに割り込んだのだ。
また、一時期は不振を極めていたアメリカもシャレーン・フラナガンが積極的なレースで見せ場を作った。
各実業団頼みの日本のマラソン強化策は、もはや限界。
この両国から得られるヒントとは、なにか。
まず、ペトロワに限らず、ロシアの選手たちは集団の揺さぶりに動揺することなく、最後まで自分たちのペースで走り抜いた。これは精神的な準備がなければできない。むしろ、追いつくことで、先行するアフリカ勢にプレッシャーを与えることも出来たのだ。
日本の3人は、ロシアの選手たちほど、メンタル的にタフには見えなかった。
アメリカはマラソンだけでなく、男子1万mでゲーレン・ラップが銀メダルを獲得するなど、長距離系の躍進が目立つ。それは競技団体が設備、科学的な研究、経済といった選手たちを支えるインフラをしっかりと準備して強化に臨んでいるからだ。
各実業団頼みの日本の方式は、もはや限界なのだ。
強化指定選手を決め、競技団体がすべてをサポートするような仕組みを作らなければ、もはや太刀打ちできないところまで来ているのだ。
日本も真剣に、マラソンにおける「団体力」を考える時期に来た。