野球善哉BACK NUMBER
虎党の叫びはベンチに届いたか?
阪神の低迷と若手育成を考える。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/07/18 12:10
4月1日の開幕戦以来の一軍出場を、7月17日の対巨人戦、しかも本拠地・甲子園でのスタメンで飾った伊藤隼太。4月2日には二軍落ちしていただけに、この日の初安打は喜びもひとしおだった。
目の前の勝利に固執し、若手の未来を奪ってしまう……。
広島の場合、堂林の思い切った起用が可能だったのは、ドラフト当初から彼をチームの主砲として育てるという目論みがあったからだ。'09年のドラフト2位で甲子園優勝投手だった堂林を野手で指名した時点で、既にチームの顔として育てていくことを決めていたのだ。
前田健太、今村猛、福井優也、野村祐輔ら投手陣を1位で指名し、2位以下では野手陣を指名する。広島のここ数年のドラフトから選手起用までを見ていると、長期的な視野に立ったチーム編成が進んでいるのがよく分かる。
楽天とて同じだ。
現状は、左打者偏重傾向があるが、ドラフトでの投手の指名と野手陣の指名リストを見ていると、そして星野監督の起用法を見ていると、勝利に向かって着々とチームを整えていっていることがうかがえる。
選手の起用法で陥りがちなのは、目の前の勝利に固執してしまうあまり、チームのビジョンを見失ってしまうことだ。和田豊監督にしても、前任の真弓明信監督にしても、若手を起用することに全く関心がないわけではなかった。だが、長期的な視野にたって我慢強く起用していくという姿勢が、広島や楽天ほどではないのだ。
虎党からの“叫び”は阪神のベンチに届いたか?
7月17日の試合。
3回で4点を失った敗色濃厚の展開から好ゲームに持ち込んだのは、2番手で登板した若手の鶴直人だった。追撃の本塁打を打ったのは新井良太だった。球場を歓声の渦に包みこんだのは伊藤隼だった。
阪神の若手には戦力になる選手がいないわけではないのだ。
「自分の持ち味なので、最初から積極的に行こうと思っていました。2打席目に変化球でしっかり粘れて、振りきれたことが3打席目の初安打につながったと思う」
プロ初安打をマークした伊藤隼は、試合後にそう語っている。若い選手たちはこんな風にして場数を踏んでいき、あらゆる経験を糧として急成長していくものなのだ。
誰を将来のチームの軸にし、育て上げたいのか。
伊藤隼への大きな歓声は、虎党からの“叫び”だったような気がしてならない。