野ボール横丁BACK NUMBER
ダルビッシュの発言で考えた――。
常識破りの技術論は本当に有効か?
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byAP/AFLO
posted2012/07/13 11:45
日米選手の体格の違いを指摘されたダルビッシュは「身体が最初から違うわけじゃなくて、そもそもトレーニングの内容が違うからでかいだけ。日本人は単純にトレーニングをしないから。筋肉ついたら身体が重くなるとか、動きが悪くなるとか、訳の分からないことを言う人がいる。だから日本は野球が伸びていない。ここ何十年も……」と強い口調で答えた。
ダルビッシュ有と、他の選手のどこが違うのか。
先日、メジャーリーグのオールスター戦の記者会見で、“日本人選手はウエイトトレーニングをしないからダメなのだ”と説いたという。確かに、ダルビッシュのトレーニングに対する知識は敬服に値する。だが、ダルビッシュの本当のすごさはそこではないと思う。
ダルビッシュのダルビッシュたる所以――。
その最たる点は、たとえばこんなところだ。
「試合も『遊び心』でいいんですよ。変化球も、試合で初めて投げたというパターンが多い。ツーシームもシュートも、試合で初めて放って、よかったので今も使ってる。ほんまに、試合で初めて握ったし、初めて放った。
ブルペンで変化球の練習をしてもおもしろくないので意味がない。試合で練習するのが、変化球はいちばん上達する。みんな怖がってやらないですけど。でも、ブルペンで完成させて、試合で使えないという人が多い。だったら、最初から試合で試した方がいいじゃないですか」
こう語っていたのは、プロ入り2年目のことだった。
うなづきつつも、「でも」と思った。本当にそんなこと、可能なのだろうか、と。球界広しと言えども、ここまで極端な実戦志向の持ち主はそうはいない。彼は、異能の持ち主だと思ったものだ。
振り返ると、ダルビッシュだけではない。やはり超一流と呼ばれるような選手は、何かしら常識を覆している。
逆に言えば、だからこそ、誰もたどり着けなかった場所に到達できたのだ。
「たくさん放らなきゃいけないのは、自分をわかってないから」
7月12日現在、防御率争いのトップに立つ広島のエース前田健太の「投げ込み否定論」も、従来まではなかった考えだ。前田健はキャンプ中も、ブルペンに入ったとしても1日あたり50、60球程度しか投げない。
「僕には投げ込みをする理由がわからない。悪くなったとき、たくさん放らなきゃいけないというのは、自分をわかってないから。それと、投げたら、それだけで満足しちゃうということもある。高校のときも大会前は1カ月ぐらい投げてなかった。小学校のときから毎日投げてきて、今さら肩のスタミナがないというのはおかしいだろう、と。僕の中では、スタミナはつけるんじゃなくて、ある、っていう考えですから」
わからないでもないが、やはり突出している。