星野監督から怒鳴られ続けて急成長した枡田。

　もし野村監督が、ここまでの間に若手育成を軽視し目先の勝利に走っていたなら、今の堂林の姿は見られなかったかもしれない。堂林は試合に出続けることで、やがて戦力となり、今や5番を打つ選手にまで成長したのだ。

　同じく、楽天で4番を打っている枡田慎太郎も、指揮官の我慢強い起用で台頭した選手だ。

　5月17日に松井稼頭央の代役として一軍に再昇格した枡田は、何度も星野監督のやり玉に挙げられていた選手だ。

　スタメン抜擢2戦目の阪神戦でのこと。楽天の先発はプロ初先発の釜田佳直だったのだが、この新人ピッチャーの好投をふいにしたのが遊撃手・枡田のマズい守備だった。二度の守備機会でミスを犯し（記録上は失策1）、星野監督をブチ切れさせた。

　しかし、この日、枡田は1安打をマークすると、しぶとく一軍に残った。

　連続でスタメン機会を得ると、毎試合のようにエラーを犯しながら、バットでも結果を残し続けたのだ。

「涙が出るよ。枡田を使い続けた俺がヒーローじゃないか」

　5月23日の中日戦ではプロ初本塁打を放ち、お立ち台にも上がった。死球による打撲で一時登録を抹消されたが、怪我が癒えると、またスタメンに戻ってきた。

　7月10日にはプロ初となるサヨナラ3点本塁打。オリックスのクローザー岸田護から逆方向に放りこんだ豪快な一発は、枡田のこれまでの結果がただの勢いではないことを伝えていた。

　星野監督もジョーク交じりに言ったものである。

「涙が出るよ。枡田を使い続けた俺がヒーローじゃないか」

　気が付けば、枡田の打順は4番になっていた。

　星野監督の我慢強い起用がなければ、あり得なかったことだ。

【次ページ】　目の前の勝利に固執し、若手の未来を奪ってしまう……。