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<金メダルへの試行錯誤> 入江陵介 「“優等生”の殻をやぶれ」
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph byTadashi Shirasawa
posted2012/07/20 06:02
“打倒・ロクテ!”の思いが変えた、練習に対する考え方。
さらにロクテという6歳上のライバルの存在自体も入江を燃え上がらせていた。
「ロクテは長い間、2位、3位に甘んじてきた選手なんです。アメリカチームには、個人メドレーに“怪物”マイケル・フェルプスがいて、そして背泳ぎにはアーロン・ピアソルという王者がいた。そんな状況で、北京でピアソルに競り勝って世界一になったロクテのことは尊敬しているし、僕も負けていられないって思うんです」
“打倒・ロクテ!”の思いは練習に対する考え方を変えた。
陸上での補強運動のメニュー量も多めにし、キッチリとトレーニングの基礎を作り、今年4月の日本選手権が終わってからは、泳ぎが崩れてしまうのを恐れて避けてきたウエイトトレーニングに本格的に取り組もうと決めた。
「去年の9月から12月までは1年間を通して戦う体づくりをするために、毎年参加していたW杯にも出場せずにひたすら泳ぎこんだ。200mの前半を楽に入るためには100mでもスピードを上げる必要があると思ったから、練習の最後にはスピード系の練習も入れるなど、かなり欲張ってやりましたね。100mの練習でもベースにするタイムが徐々に上がっていき手応えも感じていました」
練習メニューの中には、少し前から取り組み始めていたバサロキックの強化や、ターンの強化も必ず入れていた。
水泳だけに集中する生活で様々なストレスを抱え、拠点を海外へ。
だが、水泳だけに集中する生活にはストレスもあった。練習量が増えるのは納得できたが、練習に電車で通うのが苦痛だった。周囲に自分の存在を気付かれるのが嫌いだという入江は、電車の中でも帽子を被りマスクをして下を向いているのが常だ。
そんな態度でいることや、まだ暗いうちに家を出て練習に行き夜も暗くなってから帰って来る生活に気持ちもドンドン落ち込んで来る。東京の国立スポーツ科学センターへ行って練習をしたいとコーチに申し込んだが、話の行き違いから実現しなかった。
「練習拠点にしている大阪だと、あまり趣味もないし、家にこもりきりになってしまうんです。だから環境を変えるために、年末にシンガポールへ行かせてもらい、そこからは気持ち的にも落ち着いて練習できました」
五輪シーズンの初戦は1月の西オーストラリア選手権で、200mを1分54秒02と前年のベストを上回るタイムで泳ぎ、練習してきたことの手応えを感じることが出来ていた。