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<金メダルへの試行錯誤> 入江陵介 「“優等生”の殻をやぶれ」
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph byTadashi Shirasawa
posted2012/07/20 06:02
日本選手権では“優等生”から抜け出せない自分に落胆。
だが4月の日本選手権では、入江が大きな課題にしていた「前半から突っ込む」レースは出来なかった。
100mでは52秒91で泳いで手応えを感じたものの、200mでは大きな泳ぎを意識し過ぎたことと、準決勝で身体が重く感じたのが気になったこともあり、平均ペースのまま1分54秒03で泳ぎきるレースに終わった。
「日本選手権は五輪選考会だから緊張もあったし、普通に泳げば勝てるといわれるのもプレッシャーなんです。常にトップでいたいし、ある程度はタイムを残さなければいけないという思い込みも引っ掛かっていた。変なタイムを出したらメディアにマイナスな記事を書かれると思うと、どうしても無難なレースになってしまうんです」
思い切ってやってみたいと思ってもどこかで自分にブレーキをかけてしまっているもどかしさ。入江は自分が“優等生”から抜け出せないことに落胆していた。
コーチの意外な評価。そして殻を破る瞬間は訪れた。
だが、指導する道浦健寿コーチは高く評価していた。
「この大会は五輪への通過点と考えていたし、1週間前まではしっかり練習をさせていたから。今の時点では合格点」
そんな入江がやっと自分の殻を破って突っ込めたのは、5月26日のジャパンオープンだった。タイムは1分54秒80 だったが、前半100mは55秒29と自身が持つ日本記録のラップタイムより0秒32速く入れたのだ。
「1回でもああいうレースをやっておかないと、五輪では絶対に出来ないじゃないですか。だから招集所にいた時から『今しかない、今しかない』って自分に言い聞かせてました。今は、ひとつ殻を破れたような気持ちになれたんです。ただ100m通過は去年のロクテのラップを上回れたけど、彼は100~150mが速いから、次はそこですね」
このレースで感じた手応えは他にもある。日本選手権後から本格的なウエイトトレーニングを始めていたが、それによって泳ぎが崩れてはいないことを確認でき、修正に取り組んでいたバサロから泳ぎへのつなぎの部分でも、浮き上がった瞬間に失速してから泳ぎ出していた点を徐々に修正できていた。
また泳ぎ自体も、以前のように無意識で泳いでいるのではなく、どこにどう力を入れ、いかに楽に速く泳げるかを考えられるようになってきたのだ。