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<金メダルへの試行錯誤> 入江陵介 「“優等生”の殻をやぶれ」 

text by

折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

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photograph byTadashi Shirasawa

posted2012/07/20 06:02

<金メダルへの試行錯誤> 入江陵介 「“優等生”の殻をやぶれ」<Number Web> photograph by Tadashi Shirasawa

美しいフォームと大崩れしない安定感の“弱点”とは?

 入江が一気に注目されるようになったのは北京五輪前だった。'06年から200mで高校記録を連発すると、'08年1月には1分56秒53の日本記録を樹立。さらに6月に記録を1分54秒77まで伸ばし、一躍北京五輪のメダル候補と期待されたが本番では5位に終わった。

「北京は初めて重圧のかかる国際大会でした。全てのことで戸惑ったし、いきなり(北島)康介さんと同部屋で、周囲からは『次のエースはお前だ』みたいなことも言われて、どうしていいかわからなくなっていましたね」

 翌'09年には着用した水着が認可されずに非公認となったが、ロクテが持っていた世界記録を1秒以上更新する1分52秒86をマーク。7月の世界選手権ではその記録を1分52秒51まで伸ばして銀メダルを獲得と、心身ともに成長したのだ。

 小さな頃から習っているピアノが得意という入江の持ち味は、その繊細さを活かすようなきれいな泳ぎだ。額にペットボトルを乗せて泳いでも落ちないほどの安定性を誇る。

 だが、いい意味でも、悪い意味でも“優等生”的イメージがつきまとうのは間違いない。

 レースではいつも美しいフォームで安定したペースを保ち、崩れることは少ない。感覚的に泳ぎがどう崩れているかがわかり、映像分析で細かな指摘をされても、そのほとんどがすでに自分で感じていることだという。

 ただ、その反面でこんな指摘を受けることもある。

〈泳ぎが型にはまりすぎている〉

〈北島のような爆発力がない〉

「全てのレースが完璧すぎると言われますね。去年のどのレースをみても50mや100mのラップがブレることもなく、ほぼ想定通りの内容でした。上海で感じたのは、現状維持をするならそれでいいけど、上を目指すにはそれじゃダメだということです」

大差をつけられた現実に、「何かを変えないといけなくなった」。

 上海以前は、レース後半で捲くれるという自信があったため、前半で先行してみるという意識はまったく持たなかった。周りから銅メダルを獲れればいいと言われ、自分でもそう思ってしまえば、これまで通りのレースをすればいいだけだ。だが、ロンドンで金メダルを目指すなら、今までとは違う自分を作っていかなければいけないと思った。

「ロクテとの差が0コンマ何秒かだったら、きっと今まで通りの自分でいたはずです。それまで大きな差はなかったから、今のまま突き進んでいけばいいと思っていました。でも差が1秒以上になったから、何かを変えないといけなくなった。どこかで先行して、ロクテを焦らせなければ勝機は生まれません」

 周囲からは200mより100mの方が1位とのタイム差が小さかったことで、100mに専念した方が金メダルに近いという声も出てきた。だがそれが入江を刺激した。

「自分が得意なのは200m。それは絶対に捨てられない」

【次ページ】 “打倒・ロクテ!”の思いが変えた、練習に対する考え方。

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