濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
必要なのは「強者」か「勝者」か?
厳密な判定が生んだUFCの“迷勝負”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byGetty Images
posted2012/07/16 08:02
7月7日、アメリカ・ラスベガスで開催された『UFC148』。セミファイナルの試合後、フォレスト・グリフィン(写真左)は僅差での判定勝利をはぐらかすためか、自らマイクを持ち、引退試合を終えた敗者であるティト・オーティズのインタビューを行なった。
名勝負は、“迷場面”で締め括られることになった。
7月7日、アメリカ・ラスベガスで開催された『UFC148』のセミファイナル、フォレスト・グリフィンvs.ティト・オーティズ戦で“事件”は起きた。5分3ラウンドの試合が終わると、グリフィンが判定を聞くことなくオクタゴンを後にしたのだ。
負けを認めたということなのだろう。関係者に連れ戻されるグリフィンの表情は、いかにもバツが悪そうだった。
ところが、読み上げられた判定は3-0、ジャッジ3者とも29-28でグリフィンの勝利。照れ隠しなのか、グリフィンはマイクを握りオフィシャルのアナウンサーを差し置いて、これが引退試合であるティトへのインタビューを勝手に始めてしまう。後味はいよいよ悪くなった。
選手ですら負けと思っても、採点で勝ってしまう不思議。
なぜ、当事者すら負けたと思う試合が勝ちになってしまったのか。
確かに、強く見えたのはティトだった。1ラウンドはタックルからグラウンドでヒジを落とし、2ラウンド、3ラウンドにはパンチでダウンを奪っている。一方のグリフィンはピンチをしのぎつつ、遠い間合いからのパンチ、蹴りをコツコツとヒットさせていく。“見せ場”があったのは、明らかにティトだ。
だが、ジャッジが支持したのはグリフィンだった。短時間の猛攻よりも全体の支配率、一発のビッグヒットよりも手数を重視する。そんな傾向がアメリカ、とりわけラスベガスのジャッジにはある。見る者(だけでなく闘った本人も)にとってはティトの攻勢が印象に残ったが、ジャッジに反映されたのはそれ以外の大半を“支配”したグリフィンの打撃だったのだ。
37歳、これが引退試合のティトはチャンスの後の失速を覚悟した上で“決闘”を望み、この試合を今後の出世につなげたいグリフィンは“試合”をしたとも言える。