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西武・涌井の抑え転向は成功なのか?
リリーフ投手に必要な条件を考察する。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/06/27 10:30
6月23日、西武の涌井秀章はオリックス戦で9回に救援し、復帰後初セーブを挙げて渡辺久信監督(左)と勝利のタッチを交わす。
スキャンダルにまみれても、やはり涌井には華がある。
'07、'09年に最多勝、'09年に沢村賞を獲得し、同期のダルビッシュ有(レンジャーズ)が唯一人、ライバルと認めていた時期もある。それが昨年の不振(9勝12敗、防御率2.93)を皮切りに、女子アナとの結婚報道(その後解消)、ホステスとのベッドイン写真流出とスキャンダルが続けて起こり、エースの称号は地に堕ちた。
ライバル、ダルビッシュがレンジャーズに移籍して華々しく活躍すればするほど、冴えない話題ばかりが噴出する涌井はさらに影の薄い存在になっていく――少なくとも私はそう思ったし、意地の悪いマスコミや他球団のファンもそう思った。
しかし、西武ファンの涌井に対する敬意や期待感は依然として大きかった。そういうことを、誰よりも涌井はこのオリックス戦で痛感しただろう。
相手の気配を伺う先発投手の配球は、抑え投手の欠点に。
投球内容は先発投手の性(さが)だと思うが、勝負が遅い。相手の気配をうかがおうと四隅に投げ、変化球で誘い、と伏線を張りめぐらすのだ。
ライターとしての私の経験を語らせてもらうと、単行本の編集が長かった私は文章を「起承転結」で書こうとする。'93年の選抜甲子園大会で初めて新聞(日刊スポーツ)に短期(11回)連載のコラムを書いたとき、「結論からズバッと書いてくれ」と再三注意された。短い文章を起承転結で書けばモタモタした印象が残る、それは困るというのだ。
涌井が今求められているものも同じことである。モタモタして伏線を張りめぐらせているうちにカウントを悪くし、ストライクを取りに行った球を狙われる――それはチームとしては困ると。
修正能力の高さは涌井の大きな特徴である。6月23日の試合では3点差の9回表、イニング頭からマウンドに立ち、3者凡退に退けて一軍復帰後初となるセーブを挙げている。先頭の北川博敏に投じた球は、この日最速の147キロのストレートだった。このストレートで左右打者の内角をストレートでえぐる攻撃的ピッチングこそ、涌井の真骨頂である。
涌井を絶対的な守護神に祭り上げるには、まだ心許ない。
しかし、24日には2点差の9回からマウンドに上がり、1点を奪われている。先頭の代打梶本勇介に初球を三塁打されると1番スケールズを四球、続く中村一生は三振に打ち取ったものの3ボール1ストライクまでカウントを悪くし、3番後藤光尊に2ボール1ストライクから中前タイムリーを打たれてしまった。続く4番李大浩は1ボールから併殺となるショートゴロを打たせ、何とかピンチを切り抜けている。
ボールが先行しても打ち取るというのが涌井の持ち味だが、「守護神」とはナインやファンから絶対的な信頼を得て初めて得られる称号である。その点で、ボール球が先行する涌井には不満がある。モタモタした印象がどうしても残るのだ。