石川がヒジありの団体に移籍しなかった本当の理由。

　なぜ石川は、ヒジなしのKrushで闘い続けてきたのだろうか。Krushを離脱し、彼が得意とするヒジありルールの団体に移籍しようとは思わなかったのだろうか。

「そんなこと考えたこともないです」と石川は首を横に振った。「僕は宮田さん（Krushプロデューサー）が作る舞台で闘いたいんです」

　石川は全日本キック時代から宮田のもとで闘ってきた。業界屈指のマッチメイク手腕で知られる宮田は、対抗戦やトーナメントなど数々のヒット企画を生み出してきた。K-1参戦以前の魔裟斗を売り出したのも、実は彼である。石川が主戦場を変えなかったのは、宮田のプロデュース能力を信じて疑わないからだ。

　今回の石川vs.板橋も、宮田らしいマッチメイクだった。復活を期す石川に、他団体の前王者をぶつける。いわばハイリスク・ハイリターン。リスクが高い闘いだから、ファンは目が離せない。そしてそういう闘いでこそ、石川は燃える。

「確かに、僕はヒジありルールのほうが活きる選手です。でも、もっと自分が活きるのは宮田さんのマッチメイクで闘うことなんです」

　格闘技においてルールの違いは大きい。選手には向き、不向きというものがある。石川はこれまで、ルールに気持ちを左右されてきた。だが今回、彼は気持ちでルールの壁を乗り越えてみせたのである。