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佐藤寿人は招集されるべきか?
ザック選考の裏にある戦略とは。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byAFLO
posted2012/06/10 08:02
J通算100ゴールも決め、得点ランキングを独走する佐藤寿人。苦労人ながらまだ30歳、円熟の時を迎えている。
J屈指の点取り屋である佐藤を招集しない意図とは?
巷で話題となっているのが、目下Jリーグの得点ランキング首位を快走する佐藤寿人の未招集を巡る是非である。
第13節終了時点で、佐藤は10得点。早くも2ケタ得点記録を「9年連続」に伸ばし、30歳となった今も国内屈指の点取り屋として疑いようのない実績を積み重ねている。リーグ2位と快進撃を続けるサンフレッチェ広島の原動力は明らかに佐藤であり、結果が示すとおり「点を取ること」については彼の右に出る“国内組”はいない。しかしそれでも、彼の名前はリストにない。
一方、本番直前のアゼルバイジャン戦で1トップに位置したのは、イタリアで満足な結果を残せていない森本貴幸だった。
'11-'12シーズン開幕当初の森本は、ノバーラでスタメンを張り、第4節インテル戦では2つのゴールを演出する活躍でチームのリーグ初勝利に貢献した。しかし、その後はチームの低迷とともにレギュラーの座を失い、昨年11月には右膝を故障して戦線を離脱。終盤にようやくピッチに立てるまで回復したものの、特別なインパクトを示すことなくシーズンを終えた。しかしそれでも、ザッケローニは彼を招集し、森本は'10年10月のアルゼンチン戦以来、約1年7カ月ぶりとなる国際Aマッチの舞台を踏んだ。
だから確かに、「代表はその時点で最高の選手を呼ぶべき」という声も、「佐藤を試すべき」との声も理解できる。しかし両者の起用法に表れる扱いの違いは、つまり“海外組”を優遇し、“国内組”を冷遇するザッケローニの評価基準と言えるのだろうか。
全力で戦うべきW杯予選は新戦力を試す場ではない。
ザッケローニによるメンバー選考は、ジーコのそれとは大きく異なる。その印象は、おそらく「個の融合としての組織」を考えていたジーコに対し、「組織あっての個」と考えるザッケローニへの安心感に起因しているのだろう。
W杯予選は紛れもなく本番であり、何かを試す場ではない。アジア最終予選は、簡単に突破できる低い関門ではない。日本は間違いなくW杯出場の最有力国であるが、その力を発揮せずに出場権を手に入れられるほど、圧倒的な力を持っているわけではない。世界に迫ろうとする日本の背後には、日本に迫ろうとするアジア各国の姿がある。
あれだけの戦力を有しながらドイツW杯で無残な結果に終わった要因は、組織としての未熟さにあった。一方、南アフリカW杯では守備的に戦うという苦渋の決断を経て組織力を武器に戦い、それを手にしたまま半年後のアジアカップで頂点に立った。“寄せ集め”である代表チームにとっての最優先事項が組織の完成度向上にあることは、過去の失敗と成功から学ぶべき教訓だ。あれだけのタレントを抱えるアルゼンチン代表でさえ、リオネル・メッシを生かせなければ世界では勝てない。