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目指すは「日本のバルサ」!?
川崎Fの“風間革命”に昂ぶる。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO SPORT
posted2012/05/18 10:31
4月28日の初陣から5月16日現在までの戦績は2勝3敗の風間八宏監督。
実戦でも役に立つ、風間流ミニゲームの2つの特徴。
このミニゲームには、練習目的としての攻と守が原理的に区別されていないという特徴がある。
風間が守備のための練習をしないというのは都市伝説(幻想)にすぎないが、たとえば「顔を出せ(ボールホルダーに自分の存在を知らしめろ)」という指示は、攻撃の場合にはパスコースの確保につながるし、守備の局面では、相手のパスコースを切るための動き方にもそのまま転用できる。攻守一体はサッカーでは当たり前だが、ここまで一体感と練習の密度が高いのは珍しい。
と同時に注目すべきは、この種のミニゲームとフルコートのゲームの親和性だ。
キッズリーダーに始まり、C級、B級等、日本で指導者の資格を取っている人たちからは、「ミニゲームの限界論」とでもいうべきものが聞かれることがある。狭く区切られたミニコートでは意図したようなプレーができても、いざフルコートで同じことをやろうとしたときには齟齬が生じるというものだ。
しかし風間はこのような齟齬をまったく感じていない。パスコースの確保にせよ、あるいはパスコースの切り方にせよ、風間が指導する選手たちはミニゲームでやっていたことを、そのままフルコートのピッチに引き伸ばす。おそらく今の川崎は、ミニコートでのプレーとフルコートでのプレーの「スケール感」に一番差がないチームだといっても過言ではないだろう。
と同時にミニゲームでスキルを徹底して磨いていくことは、今日のサッカー界で最も重視されている「クローズドスキル(狭い局面でのテクニック)」を高めることにもつながる。ピッチ上で最も人口密度が高くなる=最もクローズドになるのはペナルティエリア内。この技術を向上させていく意義は大きい。
進化する風間フロンターレの終着点にはバルサが見える。
最後は、ファン目線に立った場合の風間イズムの「楽しみ方」について触れてみたい。
その一つは風間フロンターレの進化の行方を占うことだ。
現在、川崎ではボールを正しく止め、正しく蹴ることを徹底することに主眼が置かれている。だが風間イズムが浸透していけば、いわゆるポイントを作ってゲームを組み立てていく方法は見られなくなっていくだろう。
実は風間とは、一度ヨーロッパサッカーの話で盛り上がったことがある。話題は、巷では混同されがちなアーセナルとバルサのサッカーの違いについてだった。
両チームは共に似たようなパスサッカーをするチームとして捉えられているが、正確に言えばその原理は違う。アーセナルの場合は中盤でパスをつないでいくにしても、パスを受けた選手がポイントを作る→その選手に対して相手がダブルチームで来ようとしたところで→別の味方にパスを叩く、という感じで、階段を一つ一つ上がるようにパスをつないでいく。
だがバルサの場合は相手の出方に関係なく、場合によってはポイントさえつくらずにシームレスにパスをつないでいってしまう。仮に川崎の選手たちが最初に目指すのがアーセナルだとすれば、いずれはバルサを見据えていくことになるだろう。