フットボール“新語録”BACK NUMBER
記者はもっと大局を見よ!
浦和・ペトロビッチ監督のメディア論。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byMasahiro Ura
posted2012/05/21 10:30
声を張り上げ、選手に指示を送る浦和レッズのミハイロ・ペトロビッチ監督。サンフレッチェ時代の2007年にJ2降格も経験したが、翌年、勝点100を積み上げて1年でJ1復帰を果たした。
「5連敗しても、その後の15試合でいい結果が出ると見抜ける記者が出てきてほしい」
ミハイロ・ペトロビッチ監督(浦和レッズ)
プロである以上、すべては結果である。それは変わることのない原理原則だ。ただし、何をもって“結果”と見なすのかは、Jリーグが世界のトップリーグのひとつになるためにも、しっかりと議論しておくべきテーマだろう。浦和レッズを率いるミハイロ・ペトロビッチ監督の記者会見で、あらためてそのことを再認識させられた。
5月16日、ナビスコ杯第4節、川崎フロンターレ対浦和レッズ(0対3)の試合後、ペトロビッチ監督が会見において「風間八宏新監督率いる川崎の印象は?」と問われたときのことだ。ペトロビッチ監督は、「自分は相手チームについて話す立場にはない」と断ったうえで、こう語り始めた。
「サッカーの世界では、たった2週間で何かを大きく変えることはできないと思う。監督は魔法使いではない。メディアの方たちは試合ごとに評価をして書かなければいけないかもしれないが、監督はたとえ5試合負けても、もっと先のことを考えながらチームを作っている。3カ月、6カ月、あるいは1年、2年という長いスパンで考えているんだ。だからひとりの指導者を評価するには、ある程度長いスパンが必要。その国のトップリーグを3、4年率いたときに、初めて評価できると思う」
そして、ペトロビッチ監督はこうまとめた。
「5連敗しても、その後の15試合でいい結果が出ると見抜ける記者が出てきてほしい。メディアの方たちもひとつの勝ち負けだけでなく、長いスパンで評価できるようになったら、私は称賛の言葉を送りたい」
目先の勝敗や順位に縛られないことの大切さを知るペトロビッチ監督。
こういう監督の立場からのメディア論は、監督業に対する風当たりを和らげ、“今後、浦和が連敗することがあってもガタガタしなさんなよ”という牽制の意味もあるだろう。ときにメディアの報道は、選手たちの自信を揺るがせることがある。
ただし同時に、ペトロビッチ監督はサンフレッチェ広島時代にJ2に降格しながらも哲学は曲げず、自分のスタイルを完成させた実績がある。目先の勝敗や順位に縛られないことの大切さを知っており、メディアにもそういうサッカーの本質的なところにまで目を向けてほしいと感じているに違いない。