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風間フロンターレの不気味な動き。
大敗の初采配で見えた変革の予兆。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO SPORT
posted2012/05/01 12:10
就任してわずか4日間しか準備期間が無いまま臨んだ4月28日の対サンフレッチェ広島戦。風間八宏新監督は「短い(準備)時間だったが選手は(新しい指導法を)意識してやってくれていた」と強い手応えを感じているようだった。
これほどピッチの上が“非常識”に満ちた試合も珍しいだろう。
4月28日、川崎フロンターレの風間八宏新監督の初戦となった川崎対広島(1対4)では、Jリーグのセオリーからかけ離れた現象ばかりが目に飛び込んできた。
たとえば、風間監督が守備の綻びに対して、まったく“対症療法”を施さなかったことだ。
この日の広島は攻撃になると、佐藤寿人を頂点に選手5人を前線に張らせ、5トップのような陣形になっていた。川崎の4バックは中央に集まって守っているため、右サイドのミキッチと左サイドの山岸智が完全にフリーになる。風呂桶でたとえるなら、両ハジに大きな穴が空いているようなもの。水がじゃんじゃん漏れ出していた。
風間監督が就任したのは4月23日のことで、その翌日からの練習を含めて試合までに4日間しか準備期間がなかった。センターバックの森下俊によれば「4バックがスライドして対応する予定だった」ということだが、まず試合を落ち着かせるためには川崎も5バックにするという選択肢もあったはずだ。だが、風間監督は何一つ相手に合わせようとしなかったのである。スカウティングに力を入れるJリーグの常識からすると、穴をほったらかしにする風間流は異端中の異端だ。
「サッカーの概念が変われば、ポジションの基準が変わる」
選手を大胆にコンバートしたことも、準備期間が短いことを考えると異例だ。
広島戦では、本来ボランチの稲本潤一がセンターバックに、本来サイドバックの田中裕介がボランチに入った。「サッカーの概念が変われば、ポジションの基準が変わる」という風間哲学がいきなりピッチで表現された形だ。
ただし、稲本は普段最終ラインでプレーしていないことから、横方向から入ってくるボールにあまり慣れておらず、クロスに対して佐藤寿人をフリーにしてしまうシーンが目立った。また、田中裕介はボールを持ったときに横を向いてしまう習慣があり、まだまだ風間監督が要求するような「最初のトラップ一発で前を向く」ということができていない。
そういう不得意な部分が見えてしまうことを承知で、風間監督はあえて2人を新しいポジションで先発させた。
あまりにもふてぶてしい起用である。