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不調の昨季と何が変わったのか?
“ノーヒッター”前田健太の変身ぶり。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/04/26 12:35
去年4月の開幕戦では、マートンに先頭打者ホームランを打たれた前田健太。ノーヒットノーランの後、阪神戦も1-0で勝利している前田は、「自分が投げる試合は全部勝つつもり」とコメントしている。
不調の昨季は、マウンド上で首をかしげてばかりいた。
昨季、かろうじて奪三振王のタイトルを獲ったとはいえ不本意な1年を過ごした前田健の蘇生ぶりには、ただ驚くばかりだ。球数が多くなってマウンド上で首をかしげてばかりいた昨季のような姿は、今季には見られない。いったい何が変わったのだろうか。
大野豊投手チーフコーチはこう証言する。
「去年は球数を少なくしたいということで、ストライクゾーンで勝負していたんですよね。調整自体も上手くいっていなかったんだけど、それなのにストライクゾーンで勝負して、それを狙われていた。そして、ランナーをためて……結局、球数が多くなっていた。今年は1球1球のボールへの意識が高い。ボールの高低、スピードの強弱を付けながら、ボールゾーンの使い方が上手くできている。自分のリズムで投げられているから、球数も減っている」
そもそも、前田健は力で押すだけのタイプではない。かといって、コースをついてかわすピッチングをするタイプでもない。比較するわけではないが、同世代の田中将大(楽天)や澤村拓一(巨人)が前者、斎藤佑樹(日ハム)が後者とするならば、前田健はどちらにも属さない。総合的な力で打者を牛耳っていくタイプなのだ。
「ノーヒットに抑えたから、ヒットを打たれたから……そういうことではなく、調子が良くても悪くても、ランナーが出たら、得点を与えない。それがいい投手の証なわけだから、勝てるピッチングを今季の彼はやっているということ」と大野コーチは言葉をつないだ。
大化けした2009年から2010年の間にも、大きな意識変化があった。
思い返すと、不本意な成績だった'09年シーズン(8勝14敗)から大躍進した'10年シーズン(15勝8敗)の間にも、同じような変化があった。'10年シーズンを終えた時、前田健はこんな話をしていたことがある。
「'09年は14敗しましたけど、自分の中で、そんなに打たれたっていう印象はなくて。ただ、勝負所で相手投手が抑えていて、自分が抑えられていなかったという感じはあった。だから'10年は、自分の中での勝負所を決めて、そこを必死に抑えにいったシーズンだったんです。その結果の15勝だった」
この“勝負所を心得たピッチング”が前田健の真骨頂だが、昨季に関して言うと、その意識がやや球数に向いてしまっていた、というのが正直なところではなかったか。