野球善哉BACK NUMBER
不調の昨季と何が変わったのか?
“ノーヒッター”前田健太の変身ぶり。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/04/26 12:35
去年4月の開幕戦では、マートンに先頭打者ホームランを打たれた前田健太。ノーヒットノーランの後、阪神戦も1-0で勝利している前田は、「自分が投げる試合は全部勝つつもり」とコメントしている。
苦難の時期を経て、球界のエースになれるかが決まる。
4月24日の試合での勝負所の見極めも見事だった。
ここ一番ともいえる質の高いボールを、ピンチの時に思い切り投げ込んでいく姿は、前田健らしさが凝縮されていた。
得点圏に走者を置いた5、7回裏のピッチング。そして、この日の前田健にとって最後の打者となった8回裏、二死走者無しでのマートンに投じた3球三振のピッチングなどは、圧巻の一言だった。130キロのスライダーで空振りを取り、2球目はアウトコースぎりぎりのストレートで見逃しのストライク。3球目はストライクからボールになるスライダーでマートンのバットに空を切らせた。
スピード・キレ・コントロール全てが整っていた。グローブをパチンと叩いて引き揚げた前田健の姿に、この日一番の気合を感じたものだ。
前田健はいう。
「あの場面で一番怖いのは一発だった。マートンも、一発を狙っているような感じで打席に入っていた。あそこは、甘くいったらやられると心がけて投げました」
調子があまり良くなかった序盤を上手く切り抜け、後半の勝負所では全力を注ぐ。
まるで'10年シーズンに回帰したかのような雄姿である。
「この2年の経験がどちらも生かされている。'10年に活躍して、昨年は相手を跳ね返すことができなかった。でもね、この世界で常に順調だっていうことはないんですよ。苦しい経験をして、そこで終わる選手なのかどうか。そこを乗り越えられた時に投手として成長する。いろんな意味で強くて、逞しいピッチャーになっている」と大野コーチはエースの成長に目を細めている。
苦しかった昨季を乗り越え、球界を代表するエースへ――。
前田健は確実に、その道を歩んでいる。