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亀井義行不振の原因は“向上心”?
野球選手と筋トレの微妙な関係。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/05/03 08:00
高橋由伸の復帰、ルーキー長野久義の加入など巨人の外野手争いは熾烈。打率1割台と不振にあえぐ亀井の立場は厳しさを増している
野球選手にとって筋トレとは何なのか?
パワーアップはもちろん、ケガをしにくい強い肉体を作ることなど様々な目的があるが、その中で最も直接的なものは、技術の向上だけでは届かなかった未知の世界に、肉体を改造することで足を踏み入れることではないだろうか。
打者なら今まではちょっと差し込まれて塀際でお辞儀していたボールを、筋トレによってフェンスの向こう側まで押し込みたい。投手なら筋トレで球速をあと3キロ速くして手元でひと伸びさせることで、今まで本塁打となっていた打球をフェンス前に落下させたい。
筋トレの究極の目的は、自らの肉体そのものを改造して、そうした“あとちょっとの世界”を手に入れることだった。その夢のために、選手たちは毎日、マシンと向き合い、苦しい汗を流すわけである。
巨人・亀井の不振は上半身に偏った筋トレが原因?
だが、偏った筋トレは選手の意とは反して、マイナス効果を出してしまうケースも意外と多い。
「やっぱりバランスが大事なんですね」
巨人の亀井義行外野手がこんなことを言っている。
昨年はWBCの日本代表に選ばれ、世界一メンバーの一員となって帰国。シーズンではチームの「5番」打者としてブレークして、巨人の7年ぶりの日本一奪回の立役者ともなった。
その亀井が今季は、開幕からのスランプに苦しんでいる。20試合を経過した時点でも、打率は2割に満たず、「5番」の座も明け渡す日々が続いていた。そして、4月末には怪我もあってついに二軍落ちをしてしまう。
その不振の理由の一つが、上半身に偏った筋トレだったという声があるのだ。
「もう少しパワーをつければ、ホームランの数を増やすことができると思ったんでしょうね。オフの間は熱心にトレーニングマシンでパワーアップを図っていた。でも、上半身を中心に筋トレをやった結果、下半身とのバランスが微妙に狂ってしまったのがスランプの一つの原因のようです。本人も『タイミングが全然、とれなくなってしまった』と頭を抱えていました」
こう説明してくれたのはベテランの巨人担当記者だった。
その微妙なバランスのズレを修正するために、今はトレーナーに下半身中心のトレーニングメニューを作ってもらい、必死に土台を作り直している。
「今はだいぶ下がしっかりしてきて、下半身からの回転でバットを振れるようになってきている。このまま土台がしっかりしてバットを振り込めるようになったら、少し違う結果も出てくると思います」
本人もこんな風にスランプ脱出への青写真を描いているのだという。