自転車ツーキニストのTOKYOルート24BACK NUMBER
TOKYO西側にある桜の新名所を、
自転車に乗って一気に巡礼してみる。
text by
疋田智Satoshi Hikita
photograph bySatoshi Hikita
posted2012/04/22 08:00
20歳の頃に住んでいた家の近所には、こんな綺麗な桜が見られる公園があった。血気盛んなその頃の僕には、この桜の価値が分からなかったんだよなぁ……。
お金のかかわるところには桜が咲き誇る!?
さあ、帰ろうと、都心にハンドルを向ける。その道すがらも頻繁に見事な桜と出会う。各種の学校に、当たり前のように桜が植わり、それがいちいち派手に花を咲かせている。卒業、入学、桜の花は相応しいなぁ。
意外なところにも桜並木は数あって、たとえば五反田の繁華街の中に、おお、こんなに見事な桜のトンネルが、と驚く。五反田という駅前辺りがあまり上品でもない繁華街の中、絢爛に、清楚に、花開いている。この艶やかさ、五反田もなかなかやるじゃないか。
それから、私は前々から不思議なんだけど、お金関連の施設には、不思議に見事な桜が多い。
大阪の造幣局の有名な桜のトンネル。あれもそうだし、日銀本店の横にも立派な桜が植わっている。そういや、100円コインの表も桜だし、千円札ももちろん桜。
今回で言うなら……、ややや、ここは品川税務署だ。敷地内に見事な桜が林立してる。
なんだろう、これは。アレだろうか、桜は銭の花なのだろうか。花登筺か?「細うで繁盛記」なのか?
銭の花、咲かそと思たら、汗水という水をどんどんやりますのや……、苦労という肥やしをどんどんやって、ひとつひとつ慈しむ、すると、いつしかきれい(清潔)で美しい花が咲く……。
と、財務省は、そういう美しい銭の花を奨励してるのやもしれぬ。
違うとは思うが。
桜が悲しく美しく、愛おしいのは何故なのだろう?
桜田通り(国道一号線)をちょっと戻ると、やがて白金台エリアにやってくる。で、高輪台交差点を右に曲がってみるわけだ。
なにゆえここを曲がるかというと、ちょっと私に思い出すところがあるからだ。
頌栄女子学院の横を少しだけ行くと、あ、やっぱり。ああ、小さな公園にぎっしりの桜だ。
ここは「白金児童遊園」という。どこにでもあるような、ただの児童公園なんだけど、毎年、見事な桜が開花する。視界が真っ白になる。地元の人だけにはチョー有名である。
私は四半世紀程度前に、この付近に住んでいた。まだ20歳そこそこだった頃。親父の会社の社宅があったからだ。
ただ、あの当時は、桜の美しさに気づかなかった。それどころか、人々が皆なぜあんなに「桜、桜」と騒ぐのか、よく分からなかった。
でも、今ならよく分かるさ。
桜という花の美しさは、命の美しさの象徴なのだ。二十歳前後の頃は、自分自身の命の力強さゆえに、その価値が分からない。その美しさに気づかない。
しかし、今なら分かる。その限りある美しさの命を知り、その儚さを知っている。一斉にこんなにみごとに咲き、満開はほんのわずかの間、しかも雨や風にさらされない、という幸運あってはじめてだ。
だからこそ、こんなに桜は美しく、人はこの季節を惜しむのだ。